ダサくて古臭い

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本日、1月6日は日本のボードウォーゲーム界のみならずゲーム界全般において大きな足跡を残した鈴木銀一郎の命日、ということで、改めて追悼文や思い出話を上げる人が少なくないだろう。

が、俺は天邪鬼で「とりあえず冷水をぶっかける」というのが基本的なスタンスなので、全く逆に、鈴木が日本のボードウォーゲーム界に残した「負の遺産」を槍玉に挙げることにする。

鈴木が日本のボードウォーゲーム界に残した負の遺産、それはズバリ「見た目と使い勝手の軽視」だ。

鈴木(と黒田幸弘)が中心となってゲームデザインを手掛けてエポック社からリリースされた一連のボードウォーゲーム、いわゆるエポッククラシックスは今でこそ国産ボードウォーゲームの古典的名作群とみなされ、何度も再版されて中には英語版や支那語版もライセンス出版されているタイトルもあるが、最初のリリース時点では同時期に発売されたバンダイやツクダホビーの製品と比べて明らかに箱絵や中身の見た目が劣っていたし、そもそもシュリンクされた箱の外側だけでは中身が全くわからなかった。

ウィキの方の「日本卓上ウォーゲーム略史」でも、当時の三社がそれぞれ最初に出した雑誌広告を紹介したが、これ↓を見てどれかひとつだけ選べ、と言われて最後のを選ぶ奴なんてほとんどいないだろう。
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当時の鈴木大佐はゲームデザイナーとしては無名だったんだから、それはエポック社の責任なんじゃないの?と思う人もいるかもしれないが、鈴木が十分に功成り名遂げた後の21世紀に入ってからデザインした作品で、なおかつウォーゲームではない「競馬マフィア」も、ゲームそのものは面白いけれどコンポーネントがひどい、というのがもっぱらの評判になってしまっている。

鈴木が直接デザインに関わった作品以外でも、例えば鈴木が編集長を務めていた「シミュレイター」(新)で開催していたデザインコンテストで入選作となってエポック社から発売され、しかも箱の裏面で鈴木がデカデカと祝辞を寄せていた「失われた勝利」も、ユニット下部の攻撃力・防御力・移動力が中央寄せでギッチギチに詰められていて読み取りづらくなってしまっていた。

聞く所によると、これは版下の段階では間隔を空けていたものの、「三桁の数字が変に間延びしている」と勘違いした印刷屋が勝手に間を詰めて印刷してしまい、それを刷り直しさせずにそのまま出荷してしまったらしい。

そもそも、鈴木のお気に入りだった「Panzergruppe Guderian」ではユニット下部の攻撃力・防御力・移動力はハイフンで区切られていたのだから、それを踏襲したデザインにしておけばこんな事故は防げた筈だった(一応補足しておくと、「失われた勝利」は古角博昭のプロディースでサンセットゲームズから再版された際には攻撃力・防御力・移動力がハイフンで区切られている)。

状況証拠もこれだけ揃えば十分だ。鈴木は単にゲームデザイナーというだけでなく、自作多作を問わずプロデューサー的な立場でもあったのにも関わらず、ゲームの見た目や使い勝手というものについて、あまりにも無頓着すぎた。

生きている内に、誰かがガツンと言ってやるべきだったのだ。「いいものなら売れるなどというナイーヴな考え方は捨てろ」(©ラーメンハゲ)と。

だが、誰もそんなことは言わなかった上に、見た目が劣るエポッククラシックスが古典になってしまった。結果、日本の国産ボードウォーゲームは今もなお見た目や使い勝手が劣るシロモノが少なくない。一例を挙げると、商業パブリッシャーですらカラーユニバーサルデザインをガン無視した、色弱者にとって地形の違いが見分けづらいマップを度々作ってしまっている。イラレとフォトショは2008年に出たCS4から色覚多様性のシミュレーションツールが実装されているのにも関わらず。

これも補足しておくと、エポッククラシックスの「戦国大名」はサンセットゲームズ版ではカラーユニバーサルデザインがなされている。

そして、このような見た目や使い勝手の軽視が、近年熾烈さを増している可処分時間の奪い合いにおいて深刻な悪影響を及ぼしてしまっている。

エンタメコンテンツの供給量はむちゃくちゃ増えている一方、自由に使える時間は大して増えていない。結果、受け手の取り合いになってしまっているし、受け手の側もハズレを引くことを嫌がる傾向が増している。そして、そのような可処分時間の奪い合いでは第一印象・ファーストインプレッションがものすごく重要になってくる。

倍速視聴もタイパもルッキズムも、そうした可処分時間の奪い合いの副産物だ。

そして、そのような可処分時間の奪い合いにおいて、準備だけでも時間がかかりがちなボードウォーゲームは大きなハンデを負ってしまっている。費やす時間に見合ったユーザーエクスペリエンスを得られるのか否かが一層厳しく問われる。

だからこそ、見た目や使い勝手のデザインにも一層こだわらなければならないのにも関わらず、鈴木と同じように無頓着な奴が多すぎる。

ゲムマの会場が浅草からビッグサイトに移転してからは非電源系ゲームにおいても可処分時間の奪い合いは明らかに熾烈さを増していて、非ウォーゲーム系出展者の「見せ方(=魅せ方)」へのこだわりや工夫は回を重ねる毎に向上している一方、ウォーゲーム系(特にインディーズ)は、おしなべて毎度毎度ルーチンワークを惰性でこなしているだけで、ダサくて古臭い。

スマホでも見やすい公式サイトを作ってゲムマ会場とカタログではアクセス用のQRコードを掲示する、プロモーションビデオを作ってゲムマ会場ではタブレットでエンドレス再生する、チラシとサンプルを用意してゲムマ会場内の新作展示コーナーに置いておく、SNSだけでなくゲムマ公式サイトのブログでも紹介記事を投稿する……といった、非ウォーゲーム系の出展者だったら少なからずやっていることを、ウォーゲーム系の出展者はほとんどやっていない。

常々言っていることだが、日本で(出戻りではない)新規のボードウォーゲーマーが大して増えていないのは、単純に、TRPGやTCGやユーロゲームの界隈ではやってて当然なことをやっていないから、というだけの話だ。

で、ここまでの話は3年前にも似たようなことを書いているが、今回は作り手(特にインディーズ)に向けて具体的な対処法も三つ厳選して挙げておく。

まず、最低限、「ノンデザイナーズ・デザインブック」くらいは読んでおけ。読んでいないどころか、そんな本が存在することすら知らない奴ばっかりなのは明々白々だ。書名が示す通り、デザインを専業としていない人向けにデザインの基本を説いた一冊で、四半世紀に渡って版を重ねて読み続けられているベストセラーにしてロングセラーで、俺は1998年の初版刊行時に読んだ。当時は個人サイトのデザイン向上を目的として読んだのだが、今もなお、翻訳ルールのPDFファイルとか、ゲムマ会場で配布している首都圏ウォーゲーム定例会案内のチラシとかを作る際に、当時得た知識が役に立っている。

次に、往年のSPIレドモンド・サイモンセンや今をときめくGMTマーク・シモニッチといった、評価の高いアートワーカーが手掛けたコンポーネントをイラレでも何でも、手近なグラフィックソフトで「写経」しろ。俺は2008年に「The East is Red」と「Modern Battles」のチャイニーズファーム、そして「Napoleon at War」のマレンゴのマップを、番号付きヘクスグリッドを作成する段階から(適宜アレンジを加えつつ)全部イラレで写経した。
The_East_is_Red_mapm.jpgModern_Battles_Chinese_Farm_mapm.jpgNapoleon_at_War_Marengo_mapm.jpg

最後に、Togetterの「デザイン」タグが付いたまとめ一覧をチェックしろ。良い例も悪い例も満載だし、ひとつひとつはサクッと読める。

見た目や使い勝手にこだわる意志も能力も無い上に、そうした能力のある者を頼ることもできないような老いぼれは、これ以上ダサくて古臭い醜態を晒すな。見苦しい。

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