軍事的な研究

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日本の大学における軍事研究の是非がしばしば議論されるが、この手の話が出てくる度に疑問に思うことが、ひとつ、ある。大学での軍事研究に反対する者の中で、神戸の流通科学大学を槍玉に挙げる者が見当らないことだ。

……とは言うものの、流通科学大学そのものが関西人以外にはあまり知られていないと思われるので、まずはちょっと解説。流通科学大学は、かつてバブル崩壊まで日本最大の流通・小売グループとして君臨したダイエーの創始者である中内㓛によって1988年に設立され、「流通を科学的に研究教育することを通じて、世界の平和に貢献し、真に豊かな社会の実現に貢献できる人材を育成する」を建学の理念としている。一見すると、軍事研究とは全く関係無い大学のように見える。

しかし、流通、すなわち「必要なモノを、必要な場所に、必要な時に、必要な分だけ届ける」ことを実現するための方法論は、近代に入ってから軍によって研究が飛躍的に進んだ。時々刻々と情勢が変化する最前線に、その都度その都度必要とされるモノを的確に届けられるか否かは、戦争の勝敗に直結するからだ。そして、そうした軍事研究の成果が、平時での物流システムの改善にも適用されてきた。近年、通信販売の隆盛に伴って、スムーズな物流を実現させるための拠点として通販業者や宅配業者が日本各地に大規模な「ロジスティクスセンター」を建設しているが、「ロジスティクス(logistics)」とは直訳すれば「兵站」。ズバリ、軍事用語だ。

中内㓛は戦時中、補給が途絶えてゲリラ戦に移行したフィリピンで死線をさまよい、米軍基地を襲撃した時に基地内でアイスクリームが石油発動機で作られているのを見て衝撃を受けている。戦後、復員してダイエーを設立した後も、渡米してアメリカの流通業を研究している。つまり、戦時中に日本軍のロジスティクスの欠如で死にかけ、米軍のロジスティクスに圧倒された経験が、ダイエーの設立そして流通科学大学の設立にも繋がっている。

「必要なモノを、必要な場所に、必要な時に、必要な分だけ届ける」、そのためのシステムや技術や方法論は、平時においても役に立つが、有事においてはもっと役に立つ。つまり、流通科学大学での研究成果や、流通科学大学で学んだ経験のあるロジスティクスのエキスパートは、民生部門でも役に立つが、軍事部門ではもっと役に立つ。にも関わらず、流通科学大学での研究を軍事研究に類するものとして槍玉に挙げる者は見当らない。

要するに、大学での軍事研究に反対する輩というのは、ロジスティクスが軍事と密接に関係しているという認識が欠如しているという点で、「輜重輸卒が兵隊ならば、蝶々トンボも鳥のうち」という帝國陸軍の作戦バカとメンタリティーが同じだということだ。

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