薬と毒

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著名人が大麻や覚醒剤、コカインやヘロイン、MDMAやその他諸々を使った容疑で逮捕される事件は毎年のように起きているが、こうした事件は日本で報道される場合、容疑者は「違法薬物」を服用していた、という風に報じられる。だが、こうした「違法薬物」は、支那語では薬品の対義語として「毒品」と呼ぶ。

違法薬物がらみの事件は「毒案」、違法薬物の売人は「毒販」、違法薬物がらみのカネは「毒資」と呼ぶ。覚醒剤の一種であるメタンフェタミンは英語のスラングでは「アイス」と言うが、それに由来して支那語でも「氷毒」と呼ぶ。

「薬も過ぎれば毒となる」ということわざもあるように、本来、薬と毒は截然と分けられるものではない。大麻は鎮静薬や睡眠薬として使われていたこともあるし、実は覚醒剤も現在の日本で今なお精神病の患者向けの処方箋医薬品として製薬会社での製造と精神科での処方が行われている(他の医薬品とは別格の厳重な管理がなされているが)。トリカブトも弱毒処理が施されたものは強心作用や鎮痛作用を有していて漢方薬の原料として使われているし、ボツリヌストキシン(ボツリヌス菌が生み出す毒素)も筋肉の収縮を防ぐ作用を有していて主に痙攣を抑えるための薬として使われている。

ゆえに、日本語では「違法薬物」という言葉が使われているが、支那語圏ではたとえ同じ物質であっても医療目的で使われるのであれば薬品、医療目的で使われないのであれば毒品と呼び分けている。医療目的ではないものに対しては断じて「薬」という文字は使わない、というのは、やはりアヘンで散々な目に遭ったがゆえと言えるだろう。

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