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目次

 

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序文

プロの軍人による兵棋演習とは異なる「民間人のホビーとしての卓上ウォーゲーム」は、「19世紀にヨーロッパで誕生したミニチュアウォーゲーム」と「1950年代にアメリカで誕生したボードウォーゲーム」の二種類に大別される。

どちらも1960年代まではもっぱら欧米だけでプレイされていたが、1970年代にイギリスの模型メーカー、エアフィックスが模型雑誌「Airfix Magazine」でミニチュアウォーゲーム関連の記事を掲載したことをきっかけに、欧米以外にも広まっていった。

そのため、一口に「アジアの卓上ウォーゲーム事情」と言っても「1970年代に欧米からウォーゲームが伝わった先進地域(日本・香港・シンガポール)」と「21世紀に入ってから急激に市場が拡大した新興地域」と「その他の地域」の3つに大別され、更に人口や経済状況などでそれぞれ事情が異なっている。

 

先進地域

日本

国内卓上ウォーゲームリンク集および日本卓上ウォーゲーム略史を参照。

香港

アジアにおける英国領の国際貿易港として発展してきた香港では、ウォーゲームは1970年代からプレイされていて、現地の雑誌「模型天地」でもミニチュアウォーゲーム関連の記事が掲載されていた。加えて、現在に至るまで地元の香港人だけでなく英連邦を中心とした外国人ウォーゲーマーも多い。

1980年代前半には、数年間のみの活動ではあったものの、戰棋研究中心(Wargames Research Centre Ltd.)というメーカーがボードウォーゲームを幾つか出版していて、1983年には一度だけウォーゲームのデザインコンテストも開催していた。

この時にグランプリを獲得した支那事変ものの戦略級ゲーム「聖戰千秋」は結局出版されなかったが、当時中学生だったデザイナーの杜駿聰(Leonard To)はその後、天安門事件の影響が香港に及ぶのを恐れた両親と共に一時期アメリカに移住したりしながらも、断続的に同じテーマでゲームデザインを続けて、丁度30年後の2013年に集大成としてMMPから「War of the Suns(天無二日)」を出版した。

2000年代までは、地元にショップが無かった台湾や中華人民共和国のウォーゲーマーが香港のショップをオンライン・オフラインを問わず、利用することが少なくなかった。加えて、英文ルールや日本語ルールの支那語訳も香港人ウォーゲーマーが担うことが多く、支那語圏における卓上ウォーゲームの最先進地域だった。

2010年代に入ってからは力関係が逆転してしまったが、それでもHKSWのメンバーがヨーロッパで開催されるミニチュアウォーゲームのトーナメントに遠征したり、2019年には有志が香港防衛戦をテーマにした「Glory Recalled: Hong Kong 1941」をデザインしてKickstarterで資金を集めて出版するなど、一定の影響力は保っている。

シンガポール共和国

香港と同様に、アジアにおける英国領の国際貿易港として発展してきたシンガポールでも、ウォーゲームは1970年代からプレイされていた。あまり知られていないが日本とも少なからず関係があって、Elijah Lauは2000年代に日本のボードウォーゲームを相当数、BGGに登録してくれていて、Wei Jen SeahはMMP版日露戦争こと「The Tide at Sunrise」のマップを監修していた。しかし、香港よりも更に人口が少ない上、兵役によるブランクが発生することがハンデになるからか、現在では卓上ウォーゲームは事実上、個人単位でのプレイのみとなっている。

とはいえ、全く明るい材料が無いわけではなく、2009年にはWorldsForgeというメーカーが「Field Command: Singapore 1942」を、2017年にはFalling Piano Gamesというメーカーが「The Impregnable Fortress」を出版している。2014年にはASLの史上初のアジア太平洋トーナメント「Malaya Madness」が開催されていて、この時は東南アジアの地理的中心に位置するという地の利を生かしてか、地元シンガポールの他にも香港やフィリピン、そしてオーストラリアのASLerが参加している。2019年には再びASLのアジア太平洋トーナメント「Malaya Madmen 2019」が開催された。

 

新興地域

台湾

台湾では21世紀に入った頃から、台北の「小古桌上遊戲俱樂部(現在の名称はJOOL桌上遊戲俱樂部)」や「艾客米桌上遊戲世界」といったショップが輸入ウォーゲームを販売していたが、2009年に決定的な転機が訪れた。

兵役を終えた後、理学療法士として台北の三軍総医院に勤務していた鄭偉成(Wei-Cheng Cheng)が、生体運動学を習得するために南カリフォルニア大学へ留学して学内のボードゲームサークルに入り、そこでウォーゲームと出会ったことで自らウォーゲームのデザインを志すようになり、2009年に台湾に戻ってすぐ福爾摩莎戰棋社を設立した。

福爾摩莎戰棋社は霧社事件をテーマにした「賽德克之歌」などのハガキゲームを何作か試験的に作った後、翌2010年に戦史雑誌「突擊」と「戰場」を発行している知兵堂出版社(現在の名称は蒼璧出版有限公司)と共同で支那語圏最初の卓上ウォーゲーム専門誌「戰棋」を創刊した。

「戰棋」は2013年までに第10号まで発行され、毎号、国共内戦や支那事変などをテーマにしたゲームを付録として、台湾のウォーゲーマー人口を一気に拡大させただけでなく、海外でも大きな反響を呼び起した。香港では前述のThe Hong Kong Society of Wargamersが共同購入するようになり、日本でも「コマンドマガジン」の発行元である国際通信社が運営するネットショップ「a-game」が輸入販売するようになった(あの「艦隊これくしょん」の田中謙介プロデューサーも台湾へ行く度に購入していると4Gamer.netのインタビューで語っている)。また、創刊号の第2付録「八百壯士」と第2号の付録「圍城虎嘯」は、フランスで発行されている英文のウォーゲーム専門誌「Battles」第7号(2011年10月発行)の付録として再版された

加えて、福爾摩莎戰棋社は2012年に初のボックスゲーム「英烈千秋」も出版した。ゲームデザイナーは前述の香港の杜駿聰でグラフィックデザイナーは日本の板倉宗春という、史上初のアジア合作ボードウォーゲームとなった「英烈千秋」は、そもそもは「War of the Suns」の簡略版としてデザインされたが、「War of the Suns」の出版が(コンポーネントが膨大で製造コストが高いことから)何度も延期されたため、結果的に先に世に出ることになった。

福爾摩莎戰棋社の他にも、カジュアルなボードゲーム・カードゲームを多数出版している2Plusが、台湾の公式な歴史研究機関である國史館と共同で、2010年代初頭に児童の歴史学習用のゲームを複数開発した。

2010年代半ば以降、福爾摩莎戰棋社は代表の鄭偉成が結婚して子供も生れたため、新作の発行ペースが大幅に落ちてしまってはいるものの、2020年代に入っても活動は続いていて、2023年には久しぶりに「戰棋」第14号を発行した。

サークルも2010年代半ばから増えてゆき、加えて2017年からは春に高雄や台北で2泊3日の合宿が開催されるようになった。

中華人民共和国

人民解放軍で長年に渡って演習用の軍事シミュレーターの開発を手がけ、1993年に退役してからはPCウォーゲーム「神鷹突撃隊」も開発していた楊南征が、2006年に遠東旗艦(北京)国際科技有限公司(現在の名称は南征兵推(北京)信息技術研究院)を設立して、台湾侵攻をテーマとしたボードウォーゲーム「台海風雲」を出版した。翌2007年に楊南征は解放軍出版社からウォーゲームの解説書「虚擬演兵」を出版した。これらは退役軍人によるプロフェッショナルウォーゲーミング寄りの内容だったが、アマチュアに与えた影響も少なくなかった。

その少し前の2005年に、北京で3人のボードゲーマーが「Diplomacy」のプレイを始めて、翌2006年の年明けに「Axis & Allies」を購入して春節の連休に初めてプレイして以降、毎週末にカフェでゲーム会を開催するようになり、程無くして「北京卓上遊戯和戦棋倶楽部」を名乗るようになった。2006年の夏までに常連メンバーは10人を超え、プレイするゲームも10種類を超えた。

北京卓上遊戯和戦棋倶楽部は2007年の10月に、遠東旗艦(北京)国際科技有限公司と共同で遠東旗艦杯第1回ウォーゲーム大会を開催して、11月にはミニチュアウォーゲーム「Flames of War」のメーカー公認グループ「中国FOW倶楽部」を設立した。また、「中国国防報」などの多くのメディアの取材を受けるようになり、プレイするゲームも50種類を超えた。

2008年に、北京卓上遊戯和戦棋倶楽部はアブストラクトゲーム専門グループの「北京卓遊社」とウォーゲーム専門グループの「北京戦棋党」に二分された。北京戦棋党の常連メンバーは20人を超え、北京以外の地区からネット経由で公式掲示板に参加するメンバーも増えた。また、この頃から個人輸入したウォーゲームのコンポーネントをDTPでローカライズするようになった。

北京戦棋党はその後、(党を名乗るのがまずいという判断からか)「北京戦棋堂兵棋倶楽部」に改名したり、北京卓上遊戯和戦棋倶楽部だった頃から定例会の会場として使っていたカフェが閉店したことにより、「長征」と称してメンバーの個人宅など会場を転々としたり、公式サイトのサーバーが度々故障してしまったり、紆余曲折を経ながらも毎週末と春節や国慶節などの連休に定例会を開催して、翻訳したルールも50種類を超えたものの、コロナ禍以降、活動が確認できない。ちなみに、代表の韓肇鵬(David Han)は2010年から2011年にかけて、台湾の「戰棋」に寄稿していて、2022年にはビリビリ動画で昔のリプレイ動画を上げている

上海でも、バイドゥ掲示板の常連でアメリカや日本のボードウォーゲームを頻繁に個人輸入してレビューやリプレイを投稿していた天神降下作戦(TianChen Xiao)が、2015年から「魔都戦棋村(Shanghai Wargamers Party)」と銘打ったゲーム会をほぼ毎週末に開催していたが、コロナ禍によって休止を余儀なくされている。

2010年代前半までは国内市場が貧弱だったので、香港のショップからゲームを購入する人が結構いて、旅行や留学で日本滞在中にゲームを購入する人もいた。加えて、無料で手に入るPnPウォーゲームの情報が掲示板で共有されていた。貧乏人のASLこと「Valor & Victory」のリプレイも結構投稿されていて、JWC版「日本機動部隊」のダウンロード可能なデータからコンポーネントを自作する人も少なくなかった。

しかし、2010年代後半にはメーカーと年間出版点数が一気に増えて淘宝や京東での購入が一般的になり、日本を追い越してアメリカに次ぐ世界第2位の市場に急成長した。ゲーム開発では摩点のクラファンで資金を調達することが多く、10万元(約160万円)以上集めることも少なくない。

ただし、ほとんどのメーカーが自前の公式サイトを持ってなく、ルールに関する質問と回答の多くが掲示板でなされるため、エラータや明確化が個別のゲーム毎に集約されていない。また、淘宝や京東には盗版(海賊版)が出品されることもあり、購入前にスクショを撮って正版(正規版)なのかを画像付きで尋ねるスレッドが掲示板に立つこともある。

ウォーゲーマー個人もブログなどの自前のサイトを持っている人は少なく、開封の儀やリプレイ、インスト、ルール翻訳、自作ゲームの紹介なども、ほとんどが掲示板やビリビリ動画に投稿されている。ビリビリ動画への投稿はコロナ禍以降に急増して、相対的に掲示板への投稿が減ったが、YouTubeからの無断転載も度々投稿されている。また、楊南征も2021年にチャンネルを開設していて、依然として影響力を持っている。

 

その他の地域

大韓民国

韓国では2003年にボードゲームカフェの全国的な出店ブームが起きていて、その中には「Axis & Allies」を常備している店も結構あったので、本格的な卓上ウォーゲームを普及させる条件は、その時点では台湾や中華人民共和国よりも比較的恵まれていた。だが、それから20年経っても韓国の卓上ウォーゲーム界隈はロクに発展しなかった。国産ゲームは商業出版どころか同人ゲームでさえ出回っていないし、GMTのゲームのライセンス出版点数ですら1桁台に留まっている。

「Flames of War」や「Bolt Action」を取り扱う店はそこそこあるものの、ボードウォーゲームはボードゲームモールボードMダイブダイスといった国内大手のボードゲーム専門店ですら取り扱っていないし、Gmarketなどのオンラインショッピングモールでも取り扱っていない。つまり、品揃えが豊富でなおかつ母語で遣り取りできる店がいまだに無い。加えて、無料で手に入るPnPウォーゲームの情報の共有もなされていないので、ボードウォーゲームの入手は依然として海外からのネット購入ばかりで敷居が高い。

結果、ボードウォーゲーマーは極めて一握りの個人輸入を厭わない者ばかりで裾野の広がりに欠けていて、定例会を開催するサークルはソウルにすら無い。しかも、不定期なゲーム会も告知期間が短いものが多く(ほとんどが1週間前後)、大抵は3人前後くらいしか集まらない。

加えて、掲示板やブログへの投稿も翻訳ルールや要約表の公開ばかりで肝心要の開封記やリプレイが少ない。動画コンテンツやSNSへの画像付き投稿も極めて少なく、ビジュアル的な訴求力が低い。その上、ブログに投稿した記事を突然すべて削除することもある。更新を停止するだけならまだしも、既存の記事を全部削除するという愚行が度々あったため、20年経ってもオンラインのリソースが十分に蓄積されているとは言い難い。

2023年になってようやく、比較的長めの告知期間を設けて10人前後が参加する「ウォーゲームキャンプ」が何度か開催されてリプレイが複数投稿されるようになったが、10年遅い、と言わざるを得ない。

ボードウォーゲームに特化した国内向けネット通販ショップを週末の副業ででも始めるとか、ソウルで毎年開催されているボードゲームコンなどでPnPゲームを使ったブートキャンプを企画するとかいったことでもしない限り、さらなる発展は望めない。

フィリピン共和国

ネット上に一般公開された情報が少ないので具体的な活動が確認しにくいが、少なくともマニラ首都圏では1990年代から卓上ウォーゲームがプレイされていたので、フィリピン人ウォーゲーマーは意外と少なくない。2016年にはASLの第2回アジア太平洋トーナメント「Mayhem in Manila」も開催されている。

加えて、フィリピン人ウォーゲーマーは出稼ぎや留学で普段はアメリカに住んでいる者が結構いて、そうした在米フィリピン人ウォーゲーマーは時々フィリピンに戻ってゲームをプレイする他に、オリジンズGen ConConsimworld ExpoWorld Boardgaming Championshipsといった、アメリカでのイベントにも参加している。

Storm Over Taierzhuang」をデザインしたTerence Coや「People Power」をデザインしたKenneth Teeも、幼少期をフィリピンで過ごしていたので、東南アジアの卓上ウォーゲーマーの中でアメリカのメーカーと最も結び付きが強いのがフィリピン人、と言える。

マレーシア

インドネシア共和国

IndoBoardGames Groupというボードゲームサークルがあって、九州大学に留学中、ゲーマーズ・イン・福岡の定例会に参加していたAdhika Widyaparagaが中心となって、ウォーゲームもプレイしている。

タイ王国

カンボジア王国

前述の「Mayhem in Manila」に参加したカンボジア在住のフランス人、Raphaël Ferryによる主催で2017年にASLの第3回アジア太平洋トーナメント「Angkorfest 2017」が開催された。

インド共和国

この他に、Mumbai Board Gamersというボードゲームサークルが時々ウォーゲームもプレイしている。

アラブ首長国連邦

Dubai Board Gamersというボードゲームサークルが時々ウォーゲームもプレイしている。

カタール

Doha Wargaming Meetup Groupというサークルがウォーゲームをプレイしている。

トルコ共和国

Istanbul Board Game Enthusiastsというボードゲームサークルが時々ウォーゲームもプレイしている。




Last-modified: Wed 17-May-2023 03:35:35 PM +0900 JST