怠惰の代償

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先週の話の続き。日本のボードウォーゲームのパブリッシャー(特にインディーズ)はおしなべてダサくて古臭い、と断じるのは、この10年余りの間に新興市場、ぶっちゃけ支那語圏における先進的な事例を色々と見てきたから、というのもある。

代表的な事例を挙げると、支那語圏の商業パブリッシャーはコンポーネントを最初からフルデジタルで制作するだけでなく、開発段階で通信対戦ツール用のモジュールまで作ってしまっていて、そっちの方でプレイテストを実施している。

具体的な事例を挙げると、台湾の「戰棋」の付録ゲームは2009年の創刊時から開発段階でのプレイテストで「ZunTzu」を使っていた。

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上海の戦鼓遊戯もやはり、2014年の創業時から開発段階でのプレイテストでZunTzuを使っていた。

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日本ではボードウォーゲームの通信対戦ツールと言えばもっぱらVASSALが使われているのでZunTzuの知名度は低いが、名前が「孫子(Sun Tzu)」に引っ掛けているからか、支那語圏では2000年代後半〜2010年代前半にかけてZunTzuの使用頻度が高く、そのためパブリッシャーもZunTzuを使っていた。

2020年代に入ると(ZunTzuのアップデートが途絶えて久しいということもあってか)VASSALとTabletop Simulatorが使われることが増えたので、プレイテストも(3DCGで映える)TTSで実施されることが増えて、ビリビリ動画にもプロモーションの一環としてTTSでのプレイテストの様子が投稿されるようになった。

VASSALのモジュールは公式サイトや元々のパブリッシャーによるチェックが入ってから公開されることが多いのに対して、TTSはそのあたりがザルすぎてモジュールにルールまで含めてしまっている著作権的に完全にアウトなシロモノが少なくないから、個人的には好きではない(かなり前にSteamのセールで買いはしたものの、そうした無法地帯っぷりにドン引きして全く使っていない)。

しかし、こうした事例を見るにつけ、いまだにVASSALモジュールの制作が発売後の有志によるボランティア頼み(当然、オンラインでのプレイの機会はオフラインよりも遅れてしまう)という日本のパブリッシャーに対しては、技術力低すぎ、という悪感情を抱いてしまう。しかも、オンライン・オフラインを問わずプレイ頻度が増えた方がパブリッシャーにとってもプラスになるのに、パブリッシャーがそうしたモジュールの公開をSNSで知らせることも少ない。

そもそも、Web上でVASSALについて日本語で解説した記事は2000年代に書かれたものが多く、今となっては若干古びてしまっていて明らかに見つけにくくなってしまっているのだから、なおさらSNSを活用するべきなのにも関わらず、現状そうなっていない。

加えて、先月紹介したように、浙江省寧波市の千伏工作室は(ライセンス出版も含めて)自社製品のインスト動画を積極的に作って投稿しているが、日本でそうしたインスト動画を自ら作っている商業パブリッシャーは無い。

アンテナがクソ低くて新興勢力を舐め腐っているのか、旧態依然としたルーチンワークを惰性でこなしているのか、内部のマンパワー不足に加えて外部の頼れるコネも無いのか、いずれにせよ、こうした新興勢力がかなり前からやっていることをやっていないというのは、怠慢の誹りを免れない。

そもそも、パブリッシャーにしろリセラーにしろ、公式サイトが2000年前後の古い作りのままの所が少なくないので、VASSALモジュールや和訳ルール、そしてその他諸々の情報への導線が朽ちてしまっている。

2010年の夏から秋にかけて、上海や北京における卓上ゲーム事情を探ろうと街角をフラフラほっつき歩いていた頃、上海書城や王府井書店といった大型書店の目立つ場所で「三体」が平積みになっているのを目撃した。しかし、日本人の多くが劉慈欣を知るのには、それから10年近い歳月を要した。

そして、この10年余り、「亜州卓上戦棋定点観測」で毎月毎月、アジアの卓上ウォーゲームの最新動向のひとつとして、こうした新興勢力の活動を伝えてきたけれど、反応は鈍い。「三体」の日本上陸以前の読書界と二重写しに見えてしまって、正直、徒労感を覚えてしまう。

日本のボードウォーゲーム界隈は、1990年代の業界冬の時代と比べればかなりの回復を遂げたのも事実ではあるが、新興市場の飛躍的な隆盛と比べれば、まだまだ全然不十分だと言わざるを得ない。そして、その原因は既存のウォーゲーマーの多くが10年以上に渡ってネットやITに関する技術力の向上を怠ってきたことにある。

1980年代後半に次世代・後継者の育成に失敗したことが1990年代の業界冬の時代を招いた。そして、このままでは怠惰の代償として、再び次世代・後継者の育成に失敗してしまうかもしれない。

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