江戸時代のパックス・トクガワーナは、戦国時代の実力主義だけど戦乱続き、を否定する所から始った。それゆえ、人間集団をどんどんどんどん細分化していって、同じ小集団にずーっと所属し続けてゆけば、誰でも能力の優劣を問わず、一応食ってゆける体制を確立していった。そしてそこから、「同じ職場で同じ面子で同じ仕事をずーっと続けてゆくのが真っ当な働き方」という労働観が確立した。
加えて、山だらけで耕作可能地域が限られる日本列島では、農作業は牛や馬を使うよりもひたすら人力に頼った方がコストを下げられる。結果、長時間働けば働くほど、沢山耕せる、沢山刈り取れる、だから長時間働いた方が稼げる、という労働観も確立した(速水融言うところの「勤勉革命」)。
こうした労働観は、明治に入って新しい産業が次々と勃興し、機械を大規模に導入した第二次産業が発展すると一旦は崩れかけたが、昭和に入ってからの再江戸時代化によって第三次産業で復活した。1970年代以降、各種商店の営業時間がどんどん延びてゆき、24時間営業や盆正月の営業も当り前になっていったのは、その一例と言えるだろう。
サービス業は機械で置き換えしにくく、それゆえ同じ職場で同じ面子で同じ仕事をずーっと続けて熟練していった方が良かった、2000年頃までは。
しかし、ITの発展によって、今や第三次産業でも無人化が進んでいる。加えて、トレンドの変遷はどんどん激化していて、顧客のニーズも目まぐるしく変化している。昨日まで必要とされていた仕事が今日も必要とされるとは限らない。
同じ職場で同じ面子で同じ仕事をずーっと続けていても、その職場がずーっと存続してずーっと食ってゆけるとは断言できなくなってしまった。