江戸時代には、「同じ職場で同じ面子で同じ仕事をずーっと続けてゆくのが真っ当な働き方」という労働観が確立したのと同時に、「同じ場所にずーっと代々住み続けるのが真っ当な生き方」という人生観も確立した。日本人の持ち家信仰も、そこに端を発する。
明治に入って鉄道網が張り巡らされ、農村の余剰人口を吸収していった都市で工業が発展すると転職が珍しくなくなり、より良い住環境目当ての転居も増えていったが、昭和に入ってからの再江戸時代化によって持ち家信仰も息を吹き返し、結婚すれば通勤圏内にマイホームを買うことが当然視されていった。
しかし、土地バブル崩壊から30年が経ち、地方の過疎地の土地、そして都市部でも昭和の人口増加に伴って新たに住宅地として造成されたような土地は、今や買い手の付かない「負動産」になってしまった。加えて、「同じ職場で同じ面子で同じ仕事をずーっと続けてゆくのが真っ当な働き方」という労働観が崩れてしまったことによって、同じ場所にずーっと住み続ける意義もなくなった。
持ち家信仰の消滅という点でも、長い江戸時代は、終った。