ワープロソフトと英作文

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日本のITにおける悪癖のひとつとして、Excelが文書作成にも使われることがよく挙げられるが、そのような悪癖がまかり通る理由として、Wordの使い勝手が悪いから、と思っている日本人は多いだろう。

そもそもWordに限らず、アメリカ製のワープロソフトは元々、アメリカ人が英作文をする時のためのソフトウェアとして開発されたものなのだから、日本人が日本語の文章を作成しようとすれば、英語(厳密には米語)と日本語の違いに基づく機能と要望のミスマッチが生じるのは、当然と言えば当然だろう。

まず、(ワープロソフトに限らないが)文字の大きさの単位である「ポイント」が1ポイント=1/72インチでヤード・ポンド法が使われているので、これがそもそも日本人には馴染みにくい。

加えて、英文は横書きでなおかつ文字によって横幅が異なるので、1行の文字数が一定ではない。ゆえに、近代に入ってから正方形の金属活字による印刷が確立した日本語とは組版の考え方が大きく異なる。文字の大きさから逆算して1行の文字数が確定する日本語組版とは異なり、英語の組版では1行何文字、という考え方はしない。文章の長さに上限を設ける場合も、文字数ではなく単語数で上限を設定する。

アメリカ生れのワープロソフトにも、そうした英語の組版の考え方が反映されている。英単語は原則として途中で折り返すことは避けられるので、どうしても途中で折り返さざるを得ない場合は自動的にハイフンを挟んで表示するハイフネーション機能が実装されている。加えて、単語と単語の間で行を折り返すことによって文章の右端の見た目がガタガタになるのを防ぐため、行毎に文字の間隔や単語の間隔を微調整して左右の端を揃える自動カーニング機能も実装されている。そして、段落の冒頭にどのくらい空白を設けて字下げするのかを指定するインデント機能も実装されている。しかし、基本的に文字の縦幅横幅が均一な日本語の文章作成では、いずれも必要な機能とは言い難い。

文章全体での英単語の数を自動的に数えて表示してくれるワードカウント機能や、英単語の綴りが誤っていないか調べてくれるスペルチェック機能や、同じ単語ばかり何度も繰り返して使うのを避けるために英単語の類義語候補を表示してくれるシソーラス機能も、アメリカ生れのワープロソフトでは実装されているのが当り前だが、日本人が日本語の文章を作成する上では、あまり必要ない。

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