テーマ志向とシステム志向

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前回、卓上ウォーゲームは各陣営の違いが際立っているテーマの人気が高い、と述べたが、この「テーマ」の扱いも、ユーロゲームとウォーゲームでは大きく異なっている。

ユーロゲーマーの場合、トリテ大好きとかワカプレ命とか、システムやメカニクスでゲームを選ぶ人が少なくないが、ウォーゲーマーの場合、ゲームはテーマで選ぶ。ウォーゲームではテーマが主でシステムやメカニクスはあくまでもテーマ(=元ネタ)を再現するために従属するもの、と扱われている。

具体的なゲームで例を挙げてみる。1981年にエポック社から発売されて2001年にサンセットゲームズから再版された「関ヶ原」は、40年以上に渡って多くの日本人ウォーゲーマーの間で関ヶ原ゲームの最高峰とみなされているが、ベッティングブラフによる武将の寝返り工作がゲームのキモとなっている。

このゲームでは東軍と西軍、それぞれに「武将調略表」が用意されていて、各調略表は前田利長とか島津義弘とかいった15人の武将で区分けされていて、そこに「府中20万石」とか「高岡15万石」とかいった恩賞カードを、内容を伏せて特定の武将の欄に置く(家康や三成による、自分の側に付けばこれらの恩賞を与えるという打診を表現している)。恩賞カードは25万石から5万石刻みに0万石のスカまで6種類あって、スカ札でハッタリをかけることもできる。そして、こうした個々の武将に対する恩賞の合計額の多寡によって、時に寝返りが発生し、場合によっては本格的な合戦が始まる前に勝敗が決してしまうこともある。

しかし、このゲームを好んでプレイするウォーゲーマーは、別にベッティングやブラフが好きでプレイしているわけではない。誰が・いつ・どこで寝返るかわかったもんじゃない、という家康や三成が当時抱いていたであろう疑心暗鬼を追体験したくてプレイするのだ。

ウォーゲームの大多数を占めるヒストリカルウォーゲームは、この「プレイヤーに当時の将兵の気分を追体験させる」ということに重点が置かれている。前々回に少し触れた、SPIの創業者であるジェームズ・F・ダニガンは、それをこう表現している。

A wargame is a combination of “game,” history and science. It is a paper time-machine.
(ウォーゲームとは、「ゲーム」と歴史と科学の組み合せである。紙製のタイムマシンなのだ。)

ただし、同じテーマのゲームであっても、どういったことの追体験に重点を置いたデザインになっているのかはゲーム毎に異なるし、プレイヤーの側も、どういったことの追体験を主に求めるのかはプレイヤー毎に異なる。

例えば、実際の戦場では敵がどこにどれだけいるのかは、明確にわかるものではない(いわゆる「戦場の霧」)。とりわけ、レーダーがまだ未発達だった時代の太平洋における日米両海軍の空母戦を扱ったゲームの多くは、本物の艦隊の駒とダミーの駒を混ぜてマップに配置したり、同じマップを2枚用意してプレイヤー同士の間に衝立を設けたりすることによって、偵察機による敵艦隊の捜索を再現させ、先に敵機に見つかって先手を取られるかもしれない、という艦隊司令官の不安をプレイヤーに追体験させることに重点が置かれている。

そして、陸戦を扱ったゲームでも戦場の霧を再現させるルールが設けられているゲームはそれなりにあるものの、大海原に艦隊がポツポツ点在する空母戦よりは、おしなべてマップ上の駒の数が多い。結果、史実を知っている時点で相手の手の内なんて半分わかっているようなものなんだから、手続きが煩雑になる戦場の霧ルールなんて陸戦ではいらん、という人もいる。

また、陸戦ゲームでは個々の戦闘部隊の補給状況を確認する場合、補給源(首都とかマップの端っことか)から敵と接触せずに補給物資を届けられる「補給線」が確立しているかをチェックする方法が一般的で、基本的に補給部隊や補給物資は駒としては登場せず、補給活動の処理は簡略化されている。

しかし、1992年にアメリカで出版が始まった「オペレーショナル・コンバット・シリーズ(OCS)」の場合、補給部隊と補給物資も駒として登場し、プレイヤーは補給物資をえっちらおっちら前線まで運ばなければならない。

これにより、OCSのゲームでは補給物資をそれなりに蓄積しなければ攻撃を仕掛けられなかったり、敵の補給物資をぶんどったりといった、現実の機動戦の再現度が向上しているのだが、補給活動なんて裏方仕事にはなるべく手間をかけたくない、と、ベテランウォーゲーマーでもOCSを好まない人は少なくない。

加えて、いつの時代をテーマとするかによっても、得られる追体験の感覚は異なってくる。レシプロの複葉機とステルスジェットでは空戦の距離感やスピード感は全く異なるし、ガレー船とイージス艦では海戦の距離感やスピード感は全く異なる。そして、火薬や自動車や無線機の有無によって陸戦の距離感やスピード感は全く異なる。

ゆえに、個々のウォーゲーマーが追体験したがるテーマはどんどん細分化されるし、どのテーマならプレイするか、という守備範囲が広い人もいれば狭い人もいて、事前のマッチングが重要になってくる。

また、こうしたテーマ志向ゆえに、個々のゲームに対するウォーゲーマーの批評もテーマに軸足を置いたものになる。結果、「ゲームとしては面白いけど、あまり戦国時代の合戦っぽくない」といった、プレイヤー自身が想像する「雰囲気」や「らしさ」との一致度に重点を置いた批評が多くなる。特に、元ネタに詳しいプレイヤーほど、そうした「雰囲気」や「らしさ」との一致度を重要視するようになる。

このように、ウォーゲーマーはテーマ志向が強い。それゆえ、システム志向が強いユーロゲーマーとの間ではコミュニケーションが初っ端から成立しにくい。

ユーロゲーマーがウォーゲームを「試しに」プレイしようとして、どんなゲームがおすすめなのかをウォーゲーマーに尋ねる、ということは度々ある。だが、ユーロゲーマーは基本的にテーマに対するこだわりが薄いのに対し、ウォーゲーマーはテーマに対するこだわりが強いので、どんなテーマのゲームをプレイしたいのかを逆に尋ねる展開になることが多い。

ただ単に「ルールに基づいて競い合って勝った負けたを楽しみたい」ことだけが目的であれば、ウォーゲームは恐ろしくコスパが悪い。何らかの追体験の類を特に求めないユーロゲーマーが下手にウォーゲームに手を出しても「無駄に煩雑で、バランスも悪くって、なんかよくわからんかった」という感想を持ってしまいがちだ。結果、「ウォーゲーム=なんかよくわからんゲーム」という風説だけがユーロゲーマーの間で蔓延る。正直、ウンザリする。

とはいえ、そうした風説がユーロゲーマーの間で蔓延ることになってしまったのは、「わかる奴だけわかればいい」と、こうしたウォーゲーマーとユーロゲーマーとの間での志向の違いを説明する努力を怠ってきたウォーゲーマーの側にも責任の一端はある。

世界最大のボードゲーム専門サイト、BoardGameGeekでは「Advanced Search(上級検索)」機能を使って、登録されているゲームをカテゴリーやメカニクスで検索できる。ユーロゲーマーの場合、もっぱらメカニクスによる絞り込みを多用することになるが、ウォーゲーマーはカテゴリーによる絞り込みを多用することになる。加えて、BGGでは個々のゲームに特定のテーマをタグ付けする「ファミリー」機能が設けられているので、ウォーゲーマーは同じテーマがタグ付けされているゲームを芋蔓式に探すことが多い。

今年4月、BGGに登録されているウォーゲームを日本語のインターフェイスで検索できるWebアプリを公開した。このWebアプリの「上級戦史検索」タブを見てみれば、具体的にBGGでどういったテーマがウォーゲームにタグ付けされているのかがわかるようになっている。

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