EV推進の目的

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2010年の夏から秋にかけて、一人旅で上海や武漢や北京を回っていた時、路地をぶらぶら歩いていると、後ろからスクーターが音も無くスーッと追い越してゆくことが何度かあった。てっきりエンジンを切って惰性で走っている、と最初は思っていたのだが、何度も同じように無音のスクーターに追い越されることが続いたので、よくよく見てみると、マフラーが付いていないことに気が付いた。

電動スクーターだったのだ。

昨今、EVすなわち電気自動車の普及に関して、日本では否定的な意見が少なくない。ガソリンや軽油を燃料にする内燃機関の車に比べて加速度も走行距離も劣ってコスパが低い、という理由が大半だが、その手の論者はEV推進の最大の目的が何なのかが全くわかっていない。

EV推進の最大の目的、それは、大都市の大気汚染防止だ。

北京や上海では経済発展に伴って大気汚染が深刻化してきたことは、日本でも知られている。そして、大都市における大気汚染の主因のひとつとして、内燃機関の排気ガスが挙げられることは、世界中のどの大都市でも変らない。実際、日本でも東京や大阪などで2000年代にディーゼル車規制条例が制定されている。そして、大都市の二輪車や四輪車は、もっぱらその大都市の中だけで中・短距離を平均時速40km前後で走っているものが少なくない。そのような、いわゆるチョイ乗りであれば、内燃機関並みの加速度や走行距離なんて必要無いし、そうしたチョイ乗りの二輪車・四輪車が全て電動に置き換われば、大都市の大気汚染は大幅に改善する。

日本では電動バイクや電動スクーターではなく電動アシスト自転車の普及によって内燃機関のスクーターや低排気量のオートバイの販売台数が激減したので、既に二輪車の方で電動化がある程度進んでいる、ということが意識されにくい。だが、既に日本でも大都市で排気ガスを出すタイプの二輪車は大幅に減っているのだ。ならば、大都市でチョイ乗り目的のEVが普及する素地は、十分、ある。

現在のEVは、大都市間の高速道路だとか、沿道に何も施設が無い状態が100km以上も続く北海道の大平原だとかで運用できるものではないが、そうした運用ができないことをもってEVを否定するのは、根本的にEVの用途や目的がわかっていない。

この20年間で、日本は主にITの分野で大幅に後れを取ってしまったが、トヨタの社長が「うるさくて、ガソリンくさくて、そんなクルマが大好きですね」などと言っているようでは、自動車の分野でも大幅に後れを取ってしまいかねない。

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