マルクスの黙示録

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20世紀に世界で最も大きな影響を与えた思想は、間違いなくマルクス主義だろう。が、マルクス主義とは何だったのか、という問いには、いまだ明確な答えが出ているとは言い難い。その原因としては、マルクス主義が大きくふたつのパートに分けられることが挙げられる。

マルクス主義の大きなふたつのパートのひとつは、人類がこれまでにどのような経済活動を行ってきたのか、という「分析」。そしてもうひとつは、じゃあ一体これから先の人類の経済活動はどのようなものになるのか、という「予測」。マルクス主義は、この「分析」と「予測」に大別される。

1990年前後、マルクスの予測に則った理想的な経済活動を実現している、と自称してきた東欧やソ連の社会主義政権が相次いで崩壊したことによって、一旦、マルクス主義の権威は地に落ちた。しかしその後、世界中で経済格差が進行していったことにより、マルクスの予測の方はともかく、分析の方はやっぱりすごい、といった感じの再評価が現れてきた……というのが、ここ30年程のマルクス主義を取り巻く状況と言えるだろう。が、それでも依然として、日本人一般のマルクス主義観は表層的なものだと思えてならない。理由としては、日本人の大部分にキリスト教の知識が無いことが挙げられる。

日本人の多くは気付いていないが、マルクスの予測は、明らかにキリスト教の黙示録を換骨奪胎している。キリスト教の黙示録によれば、人類は神を信じる者と神を信じない者とに二分され、世界の終末にはキリストが再臨して千年王国が成立して、加えて最後の審判が下され、神を信じる者は天国へ行き、神を信じない者は地獄へ行く。一方、マルクスの予測によれば、資本主義によって人類は貨幣・商品・商売道具といった資本を持つ有産階級と自分自身の体しか資本を持たない無産階級とに二分され、資本主義の終末には革命が起きて無産階級独裁が成立する。

人類が二極分化し、その内どちらか一方だけが救済される、という点でキリスト教の黙示録とマルクスの予測は酷似している。そして、無産階級独裁とはキリストのいない千年王国だと言えるだろう。加えて言えば、それゆえにキリスト教圏においてマルクス主義はキリスト教に取って代ろうとした、というイメージを持っている。当然、クリスチャンと非クリスチャンとではマルクス主義の見方は相当異なる。

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