日本列島は、地理的には東アジアに属する。が、だからといって、日本が文化的にも東アジアの文化圏に属するとは、必ずしも言い切れない。というのも、日本を代表する文物とされているものの中に、実は東南アジアに淵源していたり類似のものが存在しているものが少なくないからだ。以下、思いつくまま列挙してみる。
寿司といえば、日本の国内外を問わず、代表的な日本食とみなされている。が、寿司という食品は元々、米に魚を長期間漬け込んで乳酸発酵させる発酵食品で、同様の食品は2世紀頃には東南アジアで広く作られていた。現在でも発酵食品としての寿司は鮒寿司が知られているが、近年これが東南アジアに輸出されて好評を博している。
寿司と同じく、納豆もまた、日本の国内外を問わず、代表的な日本食とみなされている。が、これもまた、大豆を発酵させた食品というものは東南アジアで広く作られている。さすがに糸を引くほど発酵させたりはしないけれど。詳しくは最近刊行された、高野秀行「謎のアジア納豆」を参照。
そもそも、日本人の主食である米そのものが、洋の東西を問わず、小麦よりも赤道寄りの地域で栽培されている。熱帯ではインディカ米が1年に2回も3回も収獲できるし、ジャポニカ米は温帯で栽培されるが、DNA解析によって発祥の地とされている長江流域は鹿児島市と同じ北緯31度前後に位置する。
食い物の次は食器。英語で「日本」は「Japan」だが、頭文字が小文字の「japan」だと「漆器」を意味する、というのは英単語の豆知識のひとつだが、ウルシ科の植物は温帯から熱帯に分布していて、ベトナムにも漆塗りの文化は存在する。2009年に仕事でホーチミン市に滞在していた時に、国営百貨店でベトナム漆器を目にしたが、日本の漆器よりも遥かにカラフルだった。ちなみに、南国フルーツの代表格とされるマンゴーもウルシ科に属するので、肌が弱い人はマンゴーでもかぶれる。
物の次は生き物。冬の間、雪が舞う中で温泉に浸かっているニホンザルというのは他国では見られないということで、英語でニホンザルはsnow monkeyとも言うが、逆に言うと、サルは基本的に雪が降るような所には住まず、熱帯に生息している。ヨーロッパには野生のサルは生息していないので、ヨーロッパ人にとってサルは長い間、地中海の向こう側、アフリカに生息する生き物という扱いで、ゴリラに至っては19世紀までUMA扱いだった。その結果、欧米では「身近に生息している、人間に近い知能の生き物」というポジションに、サルではなくイルカやクジラといった水棲哺乳類が収った。
……このように、日本を代表する文物とされているものの中には、実は東南アジアにも同様のものが存在している例が結構ある。ゆえに、日本は東アジアの一部というよりは、東アジアに突き出た東南アジアと見るのが妥当だと思う。
なんで年の暮れにこんな話をしたのかというと、年明けから東アジアを題材にしたちょっと長めの話を、何回かに分けて連続して投稿するつもりなので、その前準備として、日本が地理的だけでなく文化的にも東アジアに属するというのはちょっと単純すぎる見方だよ、という話をしておきたかった。というわけで、今年の言いたい放題は、これにて、おしまい。