大学卒業後、正社員のプログラマーとして丸十年、働いていた。が、東京に異動してからは徹夜・終電・休日出勤が常態化して、限界を感じて退職した。その後は現在に至るまで約十年、非正規雇用で様々な仕事を転々としてきた。そして、正規雇用と非正規雇用をどちらもそれなりに長く経験してきたことで、現在の日本の雇用形態の問題点も見えてきた。
ケーキ屋は、12月が最も忙しい。クリスマスケーキの需要が殺到するから。ショコラティエは、2月が最も忙しい。バレンタインチョコの需要が殺到するから。
そこまで極端ではなくても、大抵の仕事には忙しい繁忙期と暇な閑散期が存在する。それに加えて、ネットが普及して以降、トレンドがめまぐるしく変化するようになり、あらゆる需要がピンポイント化してきている。特定の時期だけ・特定の場所だけ・特定の人々だけに発生する需要がどんどん増えてきた。日常におけるハレの割合が相対的に増えてきた、とも言える。
加えて、突然の事件・事故や破壊的イノベーションによって、いきなり需要が発生したり消滅したりすることも増えてきた。そして、あらゆる仕事は、働く側の意志に関係無く、需要が無くなればやめざるを得ない。
しかし、そのような変化に、日本の雇用形態は対応できていない。昭和に入ってからの「再江戸時代化」によって、同じ職場で、同じ面子で、同じルーチンワークを日々こなしてゆくことに最適化していった日本の雇用形態は、閑散期でも赤字が出ない人数の正社員で業務を回してきた。
それゆえ、繁忙期と閑散期の落差が大きくなるにつれ、繁忙期には正社員にむちゃくちゃ残業を強いるようになったり、派遣会社を間にかまして非正規社員を一時的に雇用するようになったりしている。本来、期間を限定した直接雇用が可能であれば、雇用側にとっても被雇用側にとっても、中抜きが発生しない分、金銭的にもメリットが高いのに、毎日8時間の週5日勤務をずーっと続けられる正社員にのみ様々な保証が与えられ、加えて解雇規制も高い。だから、相変わらず繁忙期に正社員はむちゃくちゃ忙しく、非正規社員は正社員ほどの報酬も保証も得られない。忙しさと報酬が、依然として正社員に偏ったままになっている。