アカデミズムと野次馬根性

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今から丁度30年前、1994年4月は一浪を経て大学に進学、ということで、我が「いちきゅーきゅーぺけ」(©甘詰留太)を少しばかり振り返ってみる。都の西北・早稲田じゃなくって京都の西北・痴漢強姦立命館の潰しが効かねえ文学部だったけどな。

実家の経済水準は、奨学金無しで私大だと学費は出せるけど下宿代までは出せない、という位だった。高校時代は末期の「タクテクス」に載っていたサークル情報を見て大阪大学のシミュ研に出入りしていたけれど、国公立に行ける程の学力は無かった。同じく末期の「シミュレイター」では立命シミュ研のメンバーによる記事が多かったので、一応合格圏内で自宅からも通える立命館を第一志望にした。加えて、白川静先生ゆかりの大学だったことと、将来的には京都で一人暮らしをしたかったことが決定打になった。

しかし、入学はしたものの立命シミュ研は理系のメンバーが圧倒的多数で、しかも理工学部は丁度1994年に滋賀へ移転してしまった。現役で合格していれば、1年間だけでも先輩から色々教われたかもしれなかったけれど、キャンパスライフはいきなり最初からつまづいてしまった。

滋賀のびわこ・くさつキャンパスは新設でクーラー完備だったのに対し、京都の衣笠キャンパスは盆地なのにクーラーの設置率が低く、しかも1994年の夏は猛暑だったので前期試験の最中にぶっ倒れる者が続出した。そのため、衣笠キャンパスでもクーラーを完備させることになったが、文学部は後回しになってしまい、学部棟は在学中、ずっとクーラー無しのままだった。

立命館の文学部は入学時から専攻が細かく分かれていて(当時は9専攻)、一般教養以外の講義は大体同じ専攻の者としか顔を合わさないので、学部全体としての纏まりに欠けていた。自治会の活動も不調で、年次総会は毎回、参加者の人数が議題の採決に必要な定数を満たさず、流会になっていた。

そんな縦割り文学部で東洋史学を専攻することになったが、同じ専攻の学生ともほとんど没交渉だった。当時はMacでもWindowsでもユニコードがOSレベルでサポートされてなく、シフトJISに含まれていない文字が頻出する東洋史の文献をパソコンで扱うのは非現実的だったので、教授陣も含めて周りにパソコンを使う人は誰もいなかった。そんな中、DTPの技能を身につけようと、たった一人で学部棟に隣接するオープンパソコンルーム(サーバーもあったので冷房完備だった)でMacをいじり倒していたから、講義以外では誰とも会うことが無かった。

東洋史学専攻の指導教官は、孫文のライバルとして知られる宋教仁の研究を専門とする松本英紀教授だった。眼鏡と顎髭の風貌がちょっと西部邁と似ているように思えた。

松本教授については、今でも強烈に覚えている思い出が一つある。ゼミの講読演習で清朝末期の役人によるアメリカ訪問記を読んでいた時のことだった。

岩倉使節団と同様に太平洋を船で越えて旧金山(サンフランシスコ)に着き、そこから大陸横断鉄道に乗って芝加哥(シカゴ)へ向かう途中、大きな塩水湖のほとりにある街に立ち寄り、そこで現地の習俗である一夫多妻制について尋ねた、という下りに差し掛かった所で、この一夫多妻制というのはインディアンのことだろう、などと松本教授が言い出した。

すかさず、即座にツッコミを入れた。アメリカの大陸横断鉄道沿いの大きな塩水湖のほとりにある街というのは、明らかにユタ州のソルトレイクシティのことなのだから、一夫多妻制云々というのはモルモン教徒のことだ、と。

前後のことはサッパリ覚えていないのに、この遣り取りだけは四半世紀以上経った今でも強烈に覚えている。学者センセエってのもテメエの専門外の知識は雑なもんだなぁ、と思った。入学時点では将来的に大学院へ進むことも多少は考えていたけれど、結局そうしたアカデミズムの道へ進まなかった理由のひとつにもなった。

高校時代は雑誌をめちゃくちゃ乱読していたけれど、丁度その頃はバブル崩壊直後にしてインターネットの商業利用解禁直前という、日本の雑誌文化が爛熟期のピークを迎えていた頃だった。その種々雑多な果実を勝手気儘に片っ端から食い散らかしていたので、この道数十年の碩学、というスタイルはそもそも性に合っていなかった。もっと好奇心の赴くままに、野次馬根性丸出しで知の沃野を縦横無尽に駆け回ってみたかった。

そんなわけで、アカデミズムの道へは進まなかったけれど、それから四半世紀経ってどうなったかというと、こんな大してPV数も多くない個人サイトで駄文を書き散らかすしか能が無い、単なるよろず半可通にしかなれなかった。御粗末。

ちなみに、大学卒業から10年余り経って、件の清朝末期の役人とほぼ同じルートで大陸横断鉄道に乗ることになったけれど、それはまた、別の話。

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