目次

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やや長めの序文

「ドイツ戦車軍団」は1982年にエポック社の「ワールド・ウォーゲーム・シリーズ」の第7作として出版された。

ワールド・ウォーゲーム・シリーズは前年の1981年に初級者向けの「独ソ電撃戦」と「日露戦争」、中級者向けの「砂漠の狐」と「バルジ大作戦」、上級者向けの「関ヶ原」と「史上最大の作戦」という、合計6作品が同時に出版されていて、シリーズ開始時点でボードウォーゲームの初級者から上級者までを幅広くカバーしていた。

当時の国産ボードウォーゲームの中ではゲームとしての完成度が最も高いラインナップだったため、1991年にエポック社がボードウォーゲームの出版から撤退してしまった後も「エポッククラシックス」と呼ばれて古典の誉れ高く、1990年代以降も6作品全てが他社で再版されている。

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しかし、国産ボードウォーゲームの黎明期に作られたがゆえ、ボードウォーゲームの本場アメリカと比べて至らぬ点も少なくなかった。そのひとつに、アメリカのボードウォーゲームでは付いていることが少なくない「地図盤と駒の一部だけを使って数ターンだけプレイしてコツを摑む練習用のショートシナリオ」が、これら6作品には全く付いていなかった。

そうした練習用のショートシナリオの欠如(と、陸戦ゲームへの偏重)という問題に対処すべく、翌1982年に出版された第7作「ドイツ戦車軍団」と第8作「日本機動部隊」では、ショートシナリオからのステップアップ方式が採用された。

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このことが功を奏して、「ドイツ戦車軍団」と「日本機動部隊」は日本のボードウォーゲーム界における陸戦と海戦の入門用ゲームの双璧という地位を確固たるものとした。そのため、エポック社の撤退以降も、大阪の国際通信社がウォーゲーム専門誌「コマンドマガジン日本版」の付録ゲームとして1996年に「日本機動部隊」を、2002年に「ドイツ戦車軍団」を、それぞれ再版した。

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更に、国際通信社は2009年に「日本におけるウォーゲーム・ブームを支えた優れた国産ゲームをいつでも買えるように」というコンセプトで「ジャパン・ウォーゲーム・クラシックス(JWC)」というシリーズを創設して、その第1作として「日本機動部隊」を、第3作として「ドイツ戦車軍団」を、それぞれ新しいシナリオを追加してコンポーネントも刷新して再び世に送り出した。

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JWC版はそのコンセプトゆえに品切れになっても比較的早く再版されることが多く、そのこともあって、「ドイツ戦車軍団」と「日本機動部隊」は最初のエポック版の発売から40年以上を経た今もなお、新たなプレイヤーを獲得している。

加えて、国際通信社は「ドイツ戦車軍団」と同じゲームシステムを採用した新作も開発するようになり、「コマンドマガジン日本版」の付録ゲームとして2007年に「スモレンスク攻防戦」と「マーケットガーデン作戦」を、2008年に「モスクワ’41」を、2009年に「レッド・タイフーン」を出版した。これらの新作も2020年代に単体のゲームとして再版されている。

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更に、「ドイツ戦車軍団」は2010年代後半に入って北京の戦旗工作室から正式にライセンス出版され、中華人民共和国でも陸戦ものの入門ゲームとして広く受け入れられ、ビリビリ動画に投稿されるプレイ記録は時に再生数1万回を超え、遂には人民解放軍でもプレイされるようになった。

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加えて、戦旗工作室は「スモレンスク攻防戦」と「マーケットガーデン作戦」もライセンス出版していて、天津の香蕉卓遊も「レッド・タイフーン」をライセンス出版している。

日本での最初の発売から40年以上を経て、「ドイツ戦車軍団」シリーズは今や東アジアにおける比較的手軽な陸戦ゲームシリーズの定番のひとつになりつつある。

しかし、その一方で現在の「ドイツ戦車軍団」シリーズは、ひとつ問題を抱えている。アメリカではこのような「基本的なルールが統一されているシリーズもののボードウォーゲーム」は、シリーズに属する各ゲームで共通して採用されているルールをまとめた「シリーズルール」が編纂されて、なおかつシリーズルールの最新版のPDFファイルが無料で公開されていることが少なくないのだが、「ドイツ戦車軍団」のシリーズルールは公式には一度も作られていない。

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そもそも現在の「ドイツ戦車軍団」シリーズは、同じゲームシステムを採用しているのにも関わらず、ゲーム毎にルールの章立てすら食い違っていたりしている。これでは折角の「シリーズ共通のルールを把握すればシリーズ内のどのゲームでも比較的短時間でプレイを始められる」というシリーズもののメリットが十分に活かされていない。

加えて、JWCの公式サイトでは「日本機動部隊」のルールはPDF版が無料で公開されているのに対して、「ドイツ戦車軍団」のルールは公開されていない。

本稿はそのような現状に一石を投じ、なおかつ「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外も含めた、「数日〜数週〜数ヶ月に渡る作戦レベルの陸戦を扱ったヘクスマップのボードウォーゲーム」そのものを全く経験したことが無い人に向けて、必要にして十分な知識を提供することを目的としている。

 

ゲームの用具

「ドイツ戦車軍団」シリーズのゲームは、プレイに際して以下の用具を使う。

厚紙でできた駒はユーロゲームでは「チップ」や「トークン」と呼ばれることが多いが、ウォーゲームではもっぱら「カウンター(counter)」と呼ばれている。直訳すれば「数えるもの」。

何故そんな単語を使うのかという理由は古参ウォーゲーマーでも知らない人が少なくないが、実は英語ではバックギャモンの駒を「カウンター」、チェスの駒を「ピース(piece)」と呼ぶ。

1950年代にアメリカで厚紙の駒を使ったボードウォーゲームが誕生するまでは、ウォーゲームとは19世紀にヨーロッパで誕生した「ミニチュアゲーム」を意味していた。つまり、従来のミニチュアゲームではチェスの駒と同じような立体的な駒が使われていたのに対し、バックギャモンの駒と同じような平べったい駒を使うということで、「カウンター」という用語が使われるようになった。

新品のゲームの場合、カウンターはA4判もしくはA5判程度の大きさの、打ち抜き加工が施された厚紙(カウンターシート)の状態で出荷されていることが多く、その状態のカウンターシートからカッターなどで1個ずつカウンターを切り離す。

この、エンドユーザー自身がカウンターシートからカウンターを1個ずつ切り離すという行為は、特にユーロゲーマーの間ではウォーゲームの面倒臭ささや不親切さを象徴するものとみなされているが、カウンターが出荷時点でバラバラに切り離されていないのは、ウォーゲームの駒の多くが「一点物」であることに由来している。

ウォーゲームは、歴史上の実際にあった戦いをテーマとしたヒストリカルウォーゲームが多く、そうしたゲームの駒は、史実で登場する部隊や艦艇や指揮官の名前が印刷されている一点物の駒が多く、そのうえ史実に準拠してゲーム開始時点での配置場所が指定されているものも少なくない。

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当然、碁石やキューブやミープルなどとは異なり、1個紛失するだけでもプレイに支障を来すことが少なくない。そのため、プレイ前に「必要な駒が一通り全部揃っているか否か」を確認しなければならないのだが、カウンターシートの状態であれば、そうした確認の手間が省ける。

逆に、カウンターが全て切り離されてしまっている状態の中古品を売買する場合、この確認の手間が最も面倒臭い。

また、そうした一点物の駒を紛失してしまった場合、アフターサービスとして、そのような紛失してしまった駒を1個単位で販売してくれるパブリッシャーもいるし、そのようなアフターサービスが無い場合は自作することになる。いずれにせよ、具体的にどの駒を紛失してしまったのかを特定しなければならない。

ところが、一点物が多いのにも関わらず、駒の目録を同梱していない怠慢なパブリッシャーもいたりする。そうしたゲームに遭遇してしまった場合、自衛策としてカウンターシートをコンビニの複合機でコピーやスキャンしたり、スマホのカメラで撮影したりして控えを作っておいて、然る後に切り離し作業に取り組むことになる。

さて、こうして1個ずつ切り離されたカウンターは、プレイヤーが指揮することになる個々の部隊を表す「ユニット」と、ゲームの進行を補助するために使われる「マーカー」の二種類に大別される。

「ユニット(unit)」という英単語の基本的な意味は「単位」だが、「軍隊などの部隊」という意味もある。そのため、日本では1970年代半ばにアメリカからボードウォーゲームの輸入が始まってから1980年代初頭に国産ゲームが誕生する頃までは、和訳ルールなどで「部隊駒」と呼ばれることもあった。

「ドイツ戦車軍団」シリーズでは、ユニットは全て戦闘部隊を表している。「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外のゲームの場合、戦闘部隊だけでなく補給部隊を表すユニットも登場することも無くはないが、作戦レベルの陸戦を扱ったボードウォーゲームでは補給活動の手順は簡略化されることが多く、補給部隊を表すユニットが登場するゲームは決して多くはない。

そもそも、「ドイツ戦車軍団」シリーズのゲームは「一方の陣営が攻勢を開始してから、弾薬や燃料といったリソースの欠乏などによって攻勢が停止するまで」というゲーム期間の切り取り方をしていることが多い。

そのため、「ドイツ戦車軍団」シリーズのゲームは、部隊の移動や戦闘に比べれば地味な印象が否めない補給活動の要素は最初からカットされていることが多く、プレイヤーは戦闘部隊の移動と戦闘に専念できるようになっている。

ただし、作戦レベルの陸戦を扱ったボードウォーゲーム全体の中では、そのような補給活動の要素が完全にカットされているゲームは少数派に属する。冒頭で紹介したエポック社のワールド・ウォーゲーム・シリーズの初期6作品も補給活動の要素はカットされてなく、補給切れ状態の部隊に対するペナルティーなどがルールに盛り込まれている。

つまり、「ドイツ戦車軍団」シリーズは、作戦レベルの陸戦ゲームで本来は採用されていることが多い補給に関するルールを意図的にカットすることでルールの全体量を減らしている。これは功罪相半ばする。

閑話休題。「ドイツ戦車軍団」シリーズの各ユニットには、基本的に以下の情報が印刷されている。

部隊の名称は、ゲームの開始時に用いられることが多い。ヒストリカルウォーゲームではゲーム開始時点からマップ上にいる各部隊の初期配置は、史実に準拠して置き場所が指定されていることが多い。これを「固定セットアップ」(もしくは「ヒストリカルセットアップ」)と呼び、それに対して初期配置の場所が一定の範囲内でプレイヤーの自由裁量に任されているものを「フリーセットアップ」と呼ぶ。

固定セットアップに比べて、フリーセットアップはゲームの開始時点から「最良の初期配置は何か?」を考えることがプレイヤーに要求される。そのため、固定セットアップに比べて時間がかかりがちで、なおかつ初期配置の時点でプレイヤー同士の間で技量の差が出やすい。

実際、エポック社のワールド・ウォーゲーム・シリーズの初期6作品は全てフリーセットアップだったので、そのせいで初心者が挫折してしまうことは少なからずあった。加えて、現在では40年以上に渡る「ベストセットアップ」の研究が積み上げられてしまっているので、今更新規参入するのはちょっと、と、二の足を踏んでしまっている人も少なくない。

そのため、「ドイツ戦車軍団」シリーズでは基本的に固定セットアップが採用されていて、マップ上の各ユニットが初期配置されるヘクスには部隊の名称が印刷されている。そのようなヘクスに、同じ名称が印刷されているユニットを置くことで、セットアップが短時間で済むようになっている。

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ゲーム開始時点では特定のヘクスに初期配置されず、ゲーム開始後に援軍として新たに登場するユニットも、(史実に準拠して)登場するターンが指定されている場合、マップに印刷されている「ターン記録表」(英語だと「Turn Record Track」)の該当するターンの欄に部隊の名称が印刷されている。その場合、セットアップの時点で援軍ユニットもターン記録表の同じ名称が印刷されている欄に置く。

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部隊の規模と兵種を表す記号は、NATO(北大西洋条約機構)で制定・標準化されている「NATO式兵科記号」が使われている。これは実際の軍隊における作戦会議で地図に個々の部隊の情報を書き込む時の書式を多国間で統一させるために制定されたもので、市販されている戦史書・戦史雑誌に収録されている戦況図でも使われていることが多い。

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そうした記号を使うことによって、本物の作戦地図っぽさが演出され、プレイヤーは作戦会議室で地図とにらめっこする中堅クラスの指揮官の役割を演じることになる。ただし、1990年代以降、「単なる記号は味気無い」という声が増えたことや印刷技術が向上したことによって、特に戦車部隊のユニットは兵科記号ではなく戦車のシルエットやイラストが印刷されることが増えている。

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「ドイツ戦車軍団」シリーズでは、部隊の規模に関連するルールは無いものの、兵種の違いによって適用の仕方が異なってくるルールは存在する。

部隊の「移動力」は、その部隊が1ターンにつき、最大でどれだけ移動できるのかという能力を表している。「戦闘力」は、文字通り戦闘時における部隊の戦力を表している。ゲーム中は、ユニットに印刷されている様々な情報の中でも、特にこれらの数値が最も頻繁に使われることになる。

「ドイツ戦車軍団」シリーズに限らず、作戦(・戦略)レベルの陸戦を扱ったヘクスマップのボードウォーゲームでは、ほぼ共通して、ユニットの右下の数値は移動力を、左下の数値は戦闘力を表している。ゲームによっては戦闘力が「攻撃力」と「防御力」に細分化されているが、その場合、ユニットの下端に左から順に「攻撃力-防御力-移動力」が印刷されている。また、全てのユニットの移動力が一律同じ場合、戦闘力のみが印刷されていることもある。

加えて、移動時や戦闘時に通常のユニットとは異なるルールが適用される特殊なユニットは、リマインダーとして移動力や戦闘力が通常のユニットとは異なる色で印刷されていたり、丸括弧で囲まれていたりしていることが多い。

これらの情報の他に、援軍として登場するターンが指定されているユニットの場合、登場ターンが印刷されていることもある。登場するターンが指定されていない援軍であっても、援軍を表す記号が印刷されていて、ゲーム開始時点で特定のヘクスに初期配置されるユニットと見分けやすくなっているものが多い。

そして、このような記号や数値に加えて、ユニットが所属する陣営や国籍がユニットの背景色で表現されている。「ドイツ戦車軍団」シリーズに限らず、ユニットの背景色は基本的にその部隊の軍服に近い色が採用されることが多い。例えば、アメリカ南北戦争もののゲームの場合、北軍ユニットは青色、南軍ユニットは灰色になっていることが多い。

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カウンターシートから切り離されたユニットをチャック付きポリ袋やプラスチックトレイなどで分類する場合、最低限、背景色で分類すればセットアップしやすくなる。もっと細かく、初期配置のユニットと援軍ユニットに分けて、援軍ユニットを登場ターン別に分けると、更にセットアップしやすくなる。

プラスチックトレイは、専用品だとサンセットゲームズのトレイの評価が高いが、山田化学の「SIKIRI」シリーズを100均で買って使う人もいる。チャック付きポリ袋は一昔前だと業務用の200袋入りがハンズで売られている程度だったが、現在では小分けされたものが100均で買える。

これで、ユニットに関する説明は終わり……とはならない。カウンターは厚紙なので、オモテ・ウラ両面を持っている。そして、「ドイツ戦車軍団」シリーズの場合、ユニットの裏面は戦闘に敗れて退却した後の「混乱状態」を表す。

ボードウォーゲームでは、ユニットの裏面の用途は個別のゲームやシリーズ毎に異なっているが、戦闘や補給切れなどによって戦闘力が半減した状態を表したり、そのターンでの移動や戦闘を既に終了した状態を表したり、敵軍とまだ一度も交戦していない状態を表したり、通常とは異なる状態を表すことが多い。また、古いゲームや同人ゲームの場合、そもそも片面印刷のみで裏面を使わないこともある。

「ドイツ戦車軍団」シリーズでは、ユニットの裏面は一律「混乱状態」を表す。混乱状態になってしまったユニットは移動できず、戦闘にも参加できない。

加えて、固定セットアップで初期配置のヘクスが指定されているユニットの場合、指定されているヘクスの番号が裏面に印刷されている。特に「ドイツ戦車軍団」の最初のシナリオである「エル・アラメイン」に登場するイタリア軍ユニットは「Brescia(ブレシア)」と「Bologna(ボローニャ)」、「Trieste(トリエステ)」と「Trento(トレント)」など、似た名称の部隊が複数あるので、名称よりは裏面のヘクス番号を見た方がセットアップの間違いが起きにくい。

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ただし、「ドイツ戦車軍団」の中でもJWC版より前に出版された古いバージョンでは、ユニットの裏面は一律灰色一色で塗りつぶされていて、ヘクス番号も印刷されていない。そのため、自軍の混乱ユニットと敵軍の混乱ユニットの見分けがつかなくなってしまうという問題を抱えている(JWC版ではオモテ・ウラ両面とも陣営や国籍で色分けされている)。

いまだにエポック版でプレイしている古参ウォーゲーマーは少なくないが、JWC版はそうしたプレイアビリティーの向上が図られているし、新しいシナリオも追加されている。つべこべ言わずにとっとと買い換えて経済を回せ。

これで、ユニットに関する説明は本当に終わり。次はマーカー。

「ドイツ戦車軍団」シリーズに限らず、大抵のウォーゲームでは「ターンマーカー」が使われる。ヒストリカルウォーゲームは史実に準拠しているので、ゲームで取り扱う期間も決められていて、ターン数も固定されていることが多い。

加えて、夜間や真冬といった特定のターンにのみ適用されるルールがあったり、史実に準拠して特定のターンに何らかのイベントが発生することもある(援軍もそうしたイベントの一種だと言える)。そのため、現在のターンを記録しておかなければならない。

そこで、マップに印刷されているターン記録表の、現在のターンの欄にターンマーカーを置く。「ドイツ戦車軍団」シリーズではセットアップ時にターンマーカーは一律、第1ターンの欄に置く。「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外の、比較的ターン数が多いゲームの場合、途中のターンから開始するショートシナリオが用意されていることもあって、そうしたシナリオでは最初から第2ターン以降の欄にターンマーカーが置かれる。

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陸戦もののウォーゲームでは都市などの重要拠点の占領が勝利条件に関係することが多く、そうしたゲームでは「占領マーカー」が使われる。「ドイツ戦車軍団」シリーズでも、都市の占領が勝利条件に関係するシナリオでは占領マーカーが使われる。

そして、都市の占領や部隊の壊滅などによって「勝利得点(victory points)」が増減して、それが勝利条件に関係するゲームも少なくない。そうしたゲームでは現在の勝利得点を記録する「勝利得点マーカー(VPマーカー)」が用意されていて、マップに印刷されている「勝利得点表」(英語だと「Victory Point Track」)の、該当する点数の欄に勝利得点マーカーを置く。

「ドイツ戦車軍団」シリーズの勝利得点を使用するシナリオでは、セットアップ時に勝利得点マーカーは一律、0点の欄に置く。

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以上、これら三種類のマーカーが「ドイツ戦車軍団」シリーズでは使われることが多い。加えて、シナリオ固有の特殊なマーカーが使われることもある。

また、「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外の陸戦ものゲームでは、補給切れ状態(英語で「Out of Supply(OOS)」もしくは「Unsupplied」)のユニットの上に置く「補給切れマーカー」や、混乱状態(英語で「Disorder」「Disruption」「Disorganized」)のユニットの上に置く「混乱マーカー」が使われることが多い。

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加えて、塹壕・陣地の構築や都市の焦土化、橋の架設・爆破といった地形の変化を表すために、ユニットではなくマップ上の特定の箇所に置くマーカーが使われることもある。

余談だが、「ドイツ戦車軍団」の「ハリコフ攻防戦」シナリオでは、特定の鉄道線が描かれているヘクスにソ連軍ユニットが入ると、その鉄道が切断された扱いになり、切断を実施したターン毎にソ連軍が勝利得点を受け取れるのにも関わらず、そうした鉄道線の切断を記録するマーカーがJWC版でも用意されていないので、自作することを推奨する。

マーカーは基本的にユニットよりも少ないので、チャック付きポリ袋やプラスチックトレイに入れる時は、あまり細かく分類する必要は無いものの、同じ種類のマーカーが沢山ある場合は、それだけを別にしておくと、より少ない方のマーカーが見つけやすくなる。

これで、マーカーに関する説明は終わりだが、カウンターに関する説明はもう少し続く。

「ドイツ戦車軍団」ではカウンターはユニットとマーカーの二種類だけだが、「ドイツ戦車軍団」以外のゲームだと、それ以外のカウンターが使われることもある。代表的なものが「ダミー」と「チット」。

実際の戦場では、敵がどこにどれだけいるのかは詳しく把握しにくい。そのような、いわゆる「戦場の霧」の再現を重視して、本物のユニットの他にダミーが用意されていて、両者を相手プレイヤーにわからないようにまぜこぜにして使うゲームもある。

エポック社のワールド・ウォーゲーム・シリーズの初期6作品だと、「砂漠の狐」と「関ヶ原」でダミーカウンターが使われている。ただし、ダミーカウンターを使うゲームはソロプレイが(全く不可能とまでは言えないが)やりにくいので、プレイされる機会が少なくなってしまう傾向が強い。

実際、「関ヶ原」はダミーカウンターの使用・不使用が選択可能なのに対し、「砂漠の狐」はダミーカウンターが使用必須なので、エポック社のワールド・ウォーゲーム・シリーズの初期6作品の中ではネット上でのプレイ記録が最も少なく、再版されるのも最も遅かった。

「チット(chit)」は「引き駒」と訳されることもある。中身が見えない容器や袋にまとめて入れて、そこから無作為にひとつずつ取り出す。ランダムイベントの発生で使う他に、前近代の戦いを扱ったゲームなどで特定の武将・指揮官の配下にある部隊だけを行動させて敵味方の行動順序をゴチャゴチャに入り乱れさせるために使うこともある。

それ、カードの方が使い勝手が良くね?と思う人が少なくないだろうが、カウンターシートとカードを両方作ると(それぞれ異なる種類の抜き型を使って打ち抜き加工をしなければならず)製造コストが上がってしまうので、コスト削減のためにカードを作らずチットで代用することは、今もある。

とはいえ、カードに比べれば面積が遥かに小さいので、特にランダムイベントの発生でチットを使う場合は各イベントの説明文を別途ルールブックに記載しなければならず、カードの方が使い勝手が良いことは否定できない。

現在はユーロゲーマーにも知られていることが多い「カードドリブン」は、そのようなチット引きの使い勝手の悪さを解消するために誕生したという側面もある。

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しかし、今でこそカードを使うボードウォーゲームは少なくないものの、かつてはヘクスマップとカウンターだけを使うのが至高のウォーゲームだと言わんばかりに、カード使用を邪道視したり子供のおもちゃ扱いしたりするウォーゲーマーも少なくなかった(英語圏でも、昔ながらの伝統的なボードウォーゲーム、という意味で「hex and counter」という言い回しが現在でも使われている)。

これで、カウンターに関する説明は終わり。次はマップ。

ボードウォーゲームでは、紙の寸法がA1判(59.4cm×84.1cm)のマップを「フルマップ」、A2判(42cm×59.4cm)のマップを「ハーフマップ」と呼ぶ(A3判のマップはクォーターマップということになるが、そう呼ばれることは少ない)。

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ボードウォーゲーム発祥の地であるアメリカはヤード・ポンド法を使っているので、フルマップは22インチ(55.88cm)✕33インチ(83.82cm)もしくは22インチ✕34 インチ(86.36cm)になっていて、A1判よりも短辺が若干短く長辺が若干長いか短い。

囲碁と比較してみると、フルマップは標準的な19路盤、ハーフマップやクォーターマップは9路盤に相当する。また、フルマップを複数枚連結するゲームもあって、そうしたゲームはビッグゲーム、更にはモンスターゲームとも呼ばれる。

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こうした名称が示す通り、ボードウォーゲームではA1判のフルマップ1枚を使うゲームが標準的なサイズのゲームとみなされている。エポック社のワールド・ウォーゲーム・シリーズの初期6作品も、マップはいずれもA1判に近い大きさだった。

しかし、いきなりフルマップでは大きすぎて荷が重いと感じる初心者は少なくない。そのため、「ドイツ戦車軍団」(JWC版)の場合、「エル・アラメイン」「ダンケルク」「コンパス作戦」はA3判、「ハリコフ攻防戦」はA2判のマップを使う。

マップの材質は、1980年代まではボックスゲームだと分厚いハードマップと薄手のソフトマップが半々、雑誌の付録ゲームやフラットトレイ(プラスチックトレイにカウンターシートとマップとルールブックが入った簡易パッケージ)だとソフトマップが使われていたが、1990年代以降はボックスゲームでもソフトマップの割合が増えている。

アメリカの場合、マップを複数枚連結することのあるゲームでは隙間が生じないように端っこを重ね合わせる方式のものが増えて、そうしたゲームでは段差が生じないソフトマップが採用されている。

日本の場合、湿度が高いのでハードマップは反ったりカビが生えたりしやすい。加えて、居住スペースも(特に都市部では)おおむね狭いので、古くからのボードウォーゲーマーほど嵩張らないソフトマップを好む傾向が強い。

加えて、駒も立体的ではなく平べったいので、ソフトマップと平べったい駒とルールブック(とサイコロやカード)だけであれば収納スペースがかなり節約できる。実際、ボックスゲームの箱を捨てて、よりコンパクトな100均の書類ケースに入れ直す人もいたりする。

100均の書類ケースには折り畳まれたソフトマップのフルマップが2〜3枚、ルールブックが2〜3冊、そしてチャック付きポリ袋に入れられたカウンターが200〜300個は入るので、標準的なサイズのゲームであれば複数収納できる。

そのため、雑誌の付録ゲームを雑誌本体から分離して、付録ゲームだけを複数まとめて書類ケースに入れ直す人も少なくない(どのゲームをどのケースに入れたのか、わからなくなってしまいがちだけれど)。

アメリカのボードウォーゲーマーはデカい部屋のデカい本棚にデカいボックスを幾つも並べたりする人が少なくないけれど、日本で同じことをするのは難しく、ボックスゲームが箱無しで再版されることも少なくない。日本のユーロゲーマーはミニマリズム志向が強いと言われるが、ウォーゲーマーもミニマリズム志向が強い。

ただし、ソフトマップは大きければ大きいほど、広げた時に折り目の凸凹が平らになりにくく、ユニットが最悪「坂を滑り落ちる」こともある。そのため、デスクマットを上に載せてプレイする人もいる。また、普段からなるべく折り目が付かないように、ソフトマップだけをまとめてポスターフレームに入れて保管する人もいたりする。

それではいよいよ、折り畳まれたマップを広げてみることにする。「ドイツ戦車軍団」シリーズでは、どのマップも史実での戦場が描かれているスペースの面積が大半を占めていて、それがヘクスで均等に分割されている。ユニットを置く場合、いずれかのヘクスの中に置く。

マップにはこの他に、ターン記録表が印刷されていて、勝利得点を用いるシナリオでは勝利得点表も印刷されている。そして、「地形効果表」(英語だと「Terrain Effects Chart」、略してTEC)と「戦闘結果表」(英語だと「Combat Results Table」、略してCRT)も印刷されている。

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海戦や空戦とは異なり、陸戦では平地・荒地・高地・森林・都市などなど、様々な地形が存在していて、それぞれ移動のしやすさや戦闘での守りやすさが異なっている。そのような、地形の違いによる移動や戦闘などでの処理の違いが地形効果表にはまとめられている。

ただし、「ドイツ戦車軍団」の中でもJWC版より前に出版された古いバージョンでは、地形効果表はマップに印刷されてなく、ルールブックに白黒で印刷されているので、地形効果を失念した場合はルールブックを参照しなければならない。

いまだにエポック版でプレイしている古参ウォーゲーマーは少なくないが、JWC版はそうしたプレイアビリティーの向上が図られているし、新しいシナリオも追加(略)

また、同じシリーズで同じ名称の地形であっても、ゲームやシナリオによって効果が異なっていることもある。実際、「ドイツ戦車軍団」の高地や森林はシナリオによって戦闘時の効果が異なっている。これは、「ドイツ戦車軍団」のルールの中でも特に間違えやすいので注意を要するし、だからこそ、なおさらマップに地形効果表が印刷されているのが望ましい。

戦闘結果表は文字通り、個々の戦闘結果を判定するのに用いられる。具体的な使い方は戦闘に関する説明で詳述する。

「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外のゲームでは、これらの図表だけでなく、より多くの図表が印刷されていることもある。天候が移動や戦闘に影響するゲームの場合、現在のターンでの天候を記録する図表とマーカーが使われるし、弾薬や燃料といった補給物資を数値化した「補給ポイント」を消費して移動や戦闘を実行するゲームの場合、陣営別の補給ポイントの記録表とマーカーが使われることも多い。

余談だが、こうした図表類は日本語では一律「〜表」という名称になっているが、英語では縦軸と横軸で構成される表全般を「table」、その中でも文字だけでなく画像も含むものを「chart」、そして陸上競技のトラックよろしく上に置かれたマーカーが動き回るものを「track」と呼ぶ。

さて、ここで改めてマップの大部分を占めているヘクスを見てみることにする。PCウォーゲームの場合、各ヘクスはいずれか1種類の地形で塗りつぶされていることが多いが、ボードウォーゲームでは美しさを考慮に入れて、あまりキッチリ塗りつぶさないことが多い。そのため、同じヘクスに複数の地形が混在していることが多いが、その場合の処理はゲームによって異なる。

そのヘクスの中で最も多く面積を占めている地形をそのヘクスの地形として扱うこともあるし、戦闘時に守りやすい地形と守りにくい地形が混在している場合は守りやすい地形の方を優先してそのヘクスの地形として扱うこともある。

「ドイツ戦車軍団」の場合、地形は「平地」「海」「その他」の三種類に大別される。ユニットは完全に海で塗りつぶされているヘクスには入れないものの、海以外の地形が少しでも含まれているヘクスには入れる。そしてユニットが入れるヘクスに平地とその他の地形が混在している場合、その他の地形の方を優先して、そのヘクスの地形として扱う。

それから、PCウォーゲームの場合、河川はヘクス全体を占めていることが多いが、ボードウォーゲームでは河川はヘクス同士の境界(ヘクスサイド)に描かれていることが多い。「ドイツ戦車軍団」シリーズでも河川はヘクスサイド地形として扱われている。「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外ではこの他に、崖や城壁などがヘクスサイド地形になっていることもある。

余談だが、複雑に入り組んだ海岸線をヘクスマップで扱う場合、国産ゲームではヘクスに合わせて海岸線の描写をシンプル化させることが多いのに対し、アメリカのゲームでは複雑に入り組んだ海岸線のままにしておいて、ユニットが越えられないヘクスサイドを太線にしておくことが多い。

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ユニットの裏面の説明で既に触れた通り、各ヘクスには固有の番号が印刷されている。陸戦ゲームは特定のヘクスが勝利条件に関わったり特定のルールの適用対象になったりすることが多いので、番号が印刷されている方が指定しやすくて使い勝手が良い。

ただし、エポック版のマップではヘクス番号は印刷されていない。アメリカでは1970年代からヘクス番号が印刷されることが多かったのにも関わらず、エポック社のワールド・ウォーゲーム・シリーズがヘクス番号を使うようになったのは「日本機動部隊」からだった。

いまだにエポック版でプレイしている古参ウォーゲーマーは少なくないが、JWC版はそうしたプレイアビリティーの向上(略)

余談だが、各ヘクスの並行する二辺の間の長さは、かつては16mmになっていることが多かった。前述の通り、ボードウォーゲーム発祥の地であるアメリカはヤード・ポンド法を使っていて、1マイルは約1.6kmなので、例えば10万分の1の縮尺の地図に16mmのヘクスの網をかぶせると、ヘクスの中心点から隣のヘクスの中心点までの距離が実際の1マイルに相当することになる。

地図の拡大縮小が容易ではなかった時代だと、こうすればアメリカ人にとってわかりやすいヘクスマップが作りやすかった。カウンターの大きさもそれに合わせて1/2インチ(1.27cm)四方になっていた。

しかし、21世紀に入ってからは、パソコンによる地図の拡大縮小が容易になったことに加えてアメリカ人ウォーゲーマーが高齢化したため、カウンターもヘクスも1回り大きなものが増えている。

これで、マップに関する説明は終わり。次はサイコロ。

「ドイツ戦車軍団」シリーズでは、六面体サイコロを1個使う。「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外だと六面体サイコロを複数個使ったり、10面体サイコロを使うこともある。いずれにせよ、ボックスゲームであれば同梱されていることが多いし、そうでなくても100均で買えるし、無料のスマホアプリも多い。

そして、ボードウォーゲームではサイコロは基本的に「戦闘結果の判定」で使う。サイコロを使ったゲームは双六くらいしか知らないような人だと、移動ではなく戦闘でサイコロを使うのが不自然に思えるかもしれないが、実際の戦場というものは敵軍の居場所や規模は詳しく把握しにくいものだし、それに加えて地図の読み間違い・伝達ミス・天候の急変・上司部下や同期同士でのいざこざ・誤射誤爆といったイレギュラーが起きやすいし、そうしたことによる大規模なパニックも、時に起きる。

つまり、実際の戦場というものは、TRPGで言う所のクリティカルやファンブルが起きやすい。ボードウォーゲームでサイコロによる戦闘結果の振れ幅が生じるのは、そうした実際の戦場の不確実性・不安定性を表している。

ただし、個々の戦闘では参加する自軍ユニットの戦闘力の合計値が敵軍よりも多ければ多いほど、勝率は上がるように確率分布が設定されている。

それから、移動手段や通信手段が未発達だった前近代の戦いを扱ったゲームの中には、戦闘だけでなく移動でもサイコロを使うことによって、配下の部隊が思い通りに動いてくれないという前近代の戦いの雰囲気を表現しているゲームもあったりする。

とはいえ、「ドイツ戦車軍団」シリーズはシリーズ名が示す通り、自動車や無線機(ドイツ軍の戦車は無線機を標準装備していた)が広く普及している時代の戦いをテーマとしている。そのため、移動は戦闘と違って計画通りに実行できるものとして扱われていて、それゆえ移動ではサイコロを使わない。

「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外のゲームでは、この他に天候の判定やランダムイベントの発生、壊滅した部隊の再建判定などでもサイコロを使ったりする。

これで、サイコロに関する説明は終わり。そして最後の用具はルールブック……なのだが、本稿がそもそもシリーズルールなので、個別のシナリオ毎に用意されているルールブックとの違いは、シナリオ固有の初期配置や勝利条件や特別ルールくらいしかない。

本来、シリーズものはシリーズルール+個別のゲームやシナリオに固有な初期配置・勝利条件・特別ルール、という構成が望ましい。実際、アメリカではそうなっていることが多い。

これでようやく、全ての用具の説明が終了したので、いよいよゲームの準備にとりかかる。

 

ゲームの準備

いよいよゲームの準備にとりかかる……とは言ったものの、ゲームの用具に関する説明の過程で、ゲームの準備に関する説明もほとんど済んでしまっている。

シナリオを選び、マップを広げ、ソロプレイでなければ各自の担当する陣営を決め、ユニットやマーカーを所定の場所に置く。これで、ゲームの準備は物理的には完了する。

次は、そのシナリオ固有の勝利条件とゲームの手順(陣営の先攻後攻)、そして特別ルールを確認することになる。

 

勝利条件

さて、勝利条件の確認だが、これはゲームの用具と同様、ユーロゲームのそれとはかなり勝手が異なる。

ユーロゲームの多くは、同じ条件を与えられたプレイヤー同士が、同じルールに従って、同じ目標に向かって競い合う。つまり、全てのプレイヤーに同じ初期条件とルールと勝利条件が与えられている。

加えて、ユーロゲームは手持ちのリソースをどんどん増やして、最も早く一定量以上に増やしたプレイヤーが勝利する、という勝利条件が設定されていることが多い。

これに対して、ウォーゲームはほとんどの場合、プレイヤーが担当する陣営によって与えられている初期条件が大きく異なる「非対称ゲーム」になっていて、特定の陣営にのみ適用されるルールが設けられていることもある。それゆえ、勝利条件も、それを達成するための方針も、担当する陣営によって大きく異なっている。

加えて、「戦争は究極の浪費」という言葉もある通り、ウォーゲームはほとんどの場合、勝利条件を達成するためには手持ちのリソースを許容範囲内で消費しなければならない。

このように、ユーロゲームとウォーゲームとでは「プレイヤー同士の対称性」と「リソースの扱い」が大きく異なっている。それゆえ、勝利条件から逆算して、自分が担当する陣営がやるべきこと・やるべきでないことを見極め、どのリソースをどこまで消費しても構わないのかを見極めなければならない。

「ドイツ戦車軍団」シリーズのゲームは「一方の陣営が攻勢を開始してから、弾薬や燃料といったリソースの欠乏などによって攻勢が停止するまで」というゲーム期間の切り取り方をしていることが多い。

そのため、各陣営の攻勢守勢は基本的に最初から最後まで変わらず、攻守逆転のタイミングを見極める必要性は、基本的には無い。攻勢守勢が途中で逆転するシナリオは「ハリコフ攻防戦」くらいしかない。

加えて、海戦や空戦の場合、リソースは弾薬や燃料、あるいは艦船や軍用機そのものになるが、陸戦では「部隊」と「土地」という二種類のリソースがトレードオフになっている。すなわち、土地を犠牲にして部隊を温存させるか、出血覚悟で土地を確保するか。

そして、作戦レベルの陸戦ゲームの勝利条件は「重要拠点の確保」「敵軍部隊の消滅」「自軍部隊の保持」これら3つの内のどれか1つ、もしくは複数の混合になっている。

これ以上の解説は個々のシナリオのネタバレになってしまうので省略するが、これらの事を念頭に置いておけば、自らの陣営における勝利条件達成のために部隊と土地をそれぞれどこまで犠牲にできるのかが見えてくる。

 

ゲームの手順

実際の戦場では、敵味方があっちゃこっちゃで同時多発的に移動や戦闘を繰り広げている。

ボードウォーゲームでこれをなるべく忠実に再現しようとした場合、両陣営のプレイヤーがそれぞれ全ての自軍ユニットの移動と戦闘の予定をメモったりしておいて、それを同時に公開して移動と戦闘を実施するのがベスト、ということになる。

しかし、このような同時プロット方式のゲームは手間暇かかる(全く無いわけではないが、極めて少ない)。そこで次善の策として、どちらか一方のプレイヤーが全ての自軍ユニットの移動と戦闘を実施して、然る後にもう一方のプレイヤーも全ての自軍ユニットの移動と戦闘を実施する、という方式が広く採用されている。

この方式は英語では「I Go, You Go(IGOUGO)」と呼ばれている。「ドイツ戦車軍団」シリーズも、このオーソドックスな方式を採用していて、各ターンは以下の手順でプレイするようになっている。

  1. 先攻側援軍フェイズ(援軍の無いシナリオやターンでは省略)
  2.  〃 移動フェイズ
  3.  〃 戦闘フェイズ
  4. 後攻側援軍フェイズ(援軍の無いシナリオやターンでは省略)
  5.  〃 移動フェイズ
  6.  〃 戦闘フェイズ

加えて、IGOUGO方式は野球のように最初から最後まで先攻陣営・後攻陣営が固定になっていることが多い。「ドイツ戦車軍団」シリーズも、先攻陣営・後攻陣営は基本的にどのシナリオでも固定になっている。

しかし、この方式は最も手軽ではあるものの、問題が無いわけではない。実際の戦場だとしばしば起きる「敵に先手を取られてしまう」というシチュエーションが再現されないし、敵軍ユニットが次の移動フェイズでどこまで移動できるのか、おおむね予測できてしまう。

これまで何度も述べた通り、実際の戦場では、敵がどこにどれだけいるのかは詳しく把握しにくい。それゆえ、実際の軍隊では最前線の部隊とは別に予備の部隊を少し後方に控えさせておくのだが、IGOUGO方式で先攻後攻が固定されているゲームでは、敵軍ユニットが次の移動フェイズで移動できる範囲が予測できてしまうので、予備なんて作らず全ての自軍ユニットを最前線に配置するのがベストになってしまい、実際の軍隊らしくなくなってしまう。

この問題を解決するために、「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外のゲームでは、各ターンの開始時に先攻後攻をランダムに決める方式を採用しているものもある。この場合、前のターンで後攻だった側が次のターンで先攻になることで、移動と戦闘を2回連続で実施することがしばしば起きる。

また、敵味方をもっとゴチャゴチャに入り乱れさせたい場合、IGOUGO方式ではなくチット引きやカードドリブンが採用される。

 

占領と支配

シナリオ固有の勝利条件とゲームの手順と特別ルールを確認して、いよいよプレイ開始……といきたいところだが、その前に、移動と戦闘の両方に深く関係する概念を3つ、説明しておかなければならない。最初の2つは「占領」と「支配」。

占領と支配って、どっちも同じ意味でしょ?と思う人は少なくないだろう。これは国産ゲームがまだ無かった1970年代に、英文ルールで使われている「occupy」と「control」の訳語として選ばれた単語が現在まで慣習的に使われているのだが、ハッキリ言って「control」を「支配」と訳しているのは誤訳・悪訳に等しい。

作戦レベルの陸戦を扱ったヘクスマップのボードウォーゲームでは、基本的に、ユニットがいるヘクスは、そのユニットに「占領(occupy)」されていると扱われ、そのヘクスに隣接する周囲6ヘクスは、そのユニットに「支配(control)」されていると扱われる。

Occupy_and_Control.jpg

そして、それら6ヘクスを総称して「Zone of Control」、略して「ZOC(ゾック)」と呼び、「支配地域」という訳語が当てられている。

ユニットがいるヘクスではなく、隣接するヘクスに何の意味があんの?と思う人は少なくないだろう。だが、このZOCの取り扱いこそが、作戦レベルの陸戦を扱ったヘクスマップのボードウォーゲームのシステムを半分くらい決定付けている、と言っても過言ではない。

実際の軍隊というものは、敵が近付いてきた場合、普通は黙って見過ごさない。威嚇射撃を浴びせたりして足止めを食らわせ、それ以上好き勝手に行動させないように動きを封じる。

この「近付いてきた敵軍ユニットを足止めできる範囲」を抽象化したものがZOCで、移動や戦闘では敵軍ユニットのZOC(英語だと「Enemy ZOC」、略してEZOC)が深く関係してくる。

「ドイツ戦車軍団」シリーズの場合、移動や戦闘では以下の制限が課される。

これらの制限に加えて、混乱状態のユニットはZOCを失う。そのため、移動や退却では混乱状態の敵軍ユニットに隣接するヘクスを素通りできる。さすがに混乱状態とはいえ敵軍ユニットのいるヘクスそのものには入れないけど。

また、ユニットがいるヘクスに隣接するヘクスであっても、移動時にそのユニットが入れない地形のヘクスや、越えられないヘクスサイド地形が間に存在するヘクスはZOCにならない。

「ドイツ戦車軍団」の場合、「ダンケルク」での海のヘクスとヘクスサイドがこれに該当する。例えばユニットがヘクス0209(アントワープのすぐ西隣)にいる場合、0109と0110はZOCにならない。

PC_Dunkerque_partly_cancelled_zoc.jpg

このように、ZOCは敵軍ユニットの移動にも戦闘にも大きな影響を及ぼす存在なのだが、これを「支配地域」と呼ぶのは、やはり不適切だと言わざるを得ない。

だったら一体なんて呼ぶのが適切なんだよ、という声がそろそろ聞こえてきそうだが、実は韓国人ウォーゲーマーはZOCを「統制区域(통제구역)」と訳している。敵軍ユニットの行動に制限を加えるという意味では、「支配」よりは「統制」の方が適切な訳語だと言えるだろう。

ちなみに、朝鮮半島の軍事境界線(いわゆるDMZ)の更に南側には「民間人出入統制区域」が設けられている。英語だと「Civilian Control Zone」で、やはり「control」=「統制」になっている(というより、これを元にZOCを統制区域と訳している)。

「ドイツ戦車軍団」シリーズにおけるZOCの説明は、これでほぼ十分なのだが、ヘクスマップにおけるZOCの扱いはゲームによって多種多様なので、もう少し解説を続ける。

ヘクスマップを使うゲームであっても、個々のユニットが1輌/1隻/1機を表す、戦術レベルのミクロな戦いを扱ったゲームでは、基本的にZOCは使われず、そのかわり、飛び道具の射程と射界の概念が導入されていて、これが敵軍ユニットの移動に影響することになる。

逆に、隣接するヘクスまでの距離が実際の数100kmに相当するような、戦略レベルのマクロな戦いを扱ったゲームでも、それだけ広範囲の敵をまるごと拘束するというのは現実的ではないという理由で、ZOCが使われないことはある。

つまり、ZOCというものはもっぱら、隣接するヘクスまでの距離が実際の数km〜数10kmくらいに相当する、作戦レベルの陸戦ゲームで使われることが多い。ボードウォーゲーム全体の中でそういうゲームが多いことは事実だけれど、ヘクスマップであれば必ずZOCを使うわけではない。

それから、移動フェイズで離脱できるEZOCを「弱ZOC」、戦闘による退却でしか離脱できないEZOCを「強ZOC」と呼ぶ。また、戦闘フェイズで自軍ユニットのZOC内にいる敵軍ユニットを攻撃するのが任意選択なのを「メイアタック(may attack)」、攻撃必須なのを「マストアタック(must attack)」と呼ぶ。

「ドイツ戦車軍団」シリーズは弱ZOC・メイアタックで、これは近代戦ものの標準でもあるのだが、前近代の戦いをテーマとしたゲームの場合、強ZOC・マストアタックになっていることが多い。つまり、一旦敵と接触すればどちらかが敗れて逃げ出すまでひたすら殴り合いを繰り返し、その間、どちらも身動きが取れなくなる。

本筋から離れてしまうので、本稿ではこれ以上マストアタックについては詳述しないが、「コマンドマガジン日本版」第166号は付録ゲームがマストアタックを採用していることから本誌の記事でもマストアタックを特集していて、Kindle Unlimitedの契約者であればタダで記事が読める

逆に、現代戦ものの場合、EZOCからEZOCへの直接移動が少しだけ可能だったり、そもそもZOCが無いゲームもあったりする。

つまり、古代→中世→近世→近代→現代と、時代が下って部隊の機動力や通信能力、そして迷彩・煙幕・電波妨害といった偽装能力が向上すればするほど、ZOCの拘束力は落ちる傾向にある。したがって、ZOCが使われるゲームでは、そのゲームでのZOCの拘束力の強弱を把握することが重要になってくる。

それから、「ドイツ戦車軍団」シリーズは補給の要素を(意図的に)カットしているが、作戦レベルの陸戦ゲームでは補給の要素が盛り込まれているゲームの方が圧倒的に多いので、そうしたゲームでは補給もEZOCの制限を受ける。

補給の要素が盛り込まれている陸戦ゲームでは、移動フェイズや戦闘フェイズに先立って「補給確認フェイズ」が設けられていることが多い。そして、自軍の補給確認フェイズでは自軍ユニットと「補給源ヘクス」(マップの特定の端っこや特定の都市など)の間に、補給物資の輸送ルートである「補給線」が確立できるか否かをユニット毎に判定する。

この補給線は敵軍ユニットのいるヘクスはもちろんのこと、EZOCも経由できない(補給部隊が足止めを食らう)。そして補給線を確立できないユニットは補給切れとみなされ、直後の移動や戦闘が制限される。

それから、「既に自軍ユニットがいるEZOC」の扱いをどうするかは、ルールで明記されていないことが多く、その場合、プレイヤー間で解釈が分かれやすい。

「既に自軍ユニットがいるEZOC」は、実際の戦場で言えば「既に敵軍と散発的な小競り合いをしている友軍のいる所」ということになる。移動や退却でそうした場所を素通りしたり、補給確認で補給線を通したりするのは、果たしてアリかナシか。

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味方がうじゃうじゃいるんだから常識的に可能だろ、と解釈する人もいれば、ルールでは可能だとハッキリ明記されていないからダメ、と解釈する人もいる。

ヒストリカルウォーゲームは、「史実や現実の軍事行動と照らし合わせて実行が可能か不可能か」という解釈が分かれる行動・選択肢がしばしば議論になり、それが原因でルールの追加・変更・明確化が後で発表されることも少なくない(だからこそ、いつでも容易に差し替えできるように、個々のルールに通し番号を振って箇条書きにしていることが多い)。「既に自軍ユニットがいるEZOC」の扱いは、その代表格だと言える。

それから、地形などによるZOCの部分的無効化は、多ければ多いほどプレイヤーに課される負担が大きくなる。PCゲームであればアイコンや輪郭線を表示したりシャドウやハイライトをかけることによってZOCを可視化できるが、非電源系ゲームではZOCの可視化は事実上不可能なので、どのヘクスがZOCなのか否か、人力で判定しなければならない。当然、ユニットに隣接しているけれどZOCではない、というヘクスが多ければ多いほど、人力による判定の負担が大きくなる。

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古参ウォーゲーマーはついつい忘れてしまいがちだが、ZOCという可視化され難い存在は、ウォーゲームの代表的な特徴のひとつになっている一方で、ウォーゲームのわかりにくさや難しさの一因にもなっていて、功罪相半ばする。サッカーのオフサイドに近い。

それから、これは完全に余談だが、所帯持ちのウォーゲーマーは家族サービスでゲーム会などのイベント参加を断念せざるを得ないことが度々あったりするので、そのようなイベント参加を妨げる家族絡みの束縛は、日本人ウォーゲーマーの間では「家ZOC」と呼ばれている。

閑話休題。ZOCと支配(というよりは統制)に関する説明が長くなりすぎて、占領に関する説明が後回しになってしまった。とはいえ、ZOCほど使われる機会は多くないので、説明も長くはならない。

都市などの重要拠点のヘクスをどの陣営が占領しているのか、占領マーカーを置いて表示するゲームの場合、そうしたヘクスに初期配置の時点でユニットが置かれているのであれば、そのヘクスはそのユニットが属する陣営に占領されている扱いになり、その陣営の占領マーカーを置く。

そうしたヘクスに初期配置の時点でユニットが置かれていない場合も、どの陣営に占領されている扱いになるのかはルールで指定されているので、やはり占領マーカーを置く(ユニット化されずZOCも持たない小規模な部隊が駐留している扱いになる)。

そして、ゲーム開始以降は、そうしたヘクスは敵対する陣営のユニットが入る度に占領している陣営が変わることになるので、適宜占領マーカーを変更する。

ZOCは、同じヘクスに自軍ユニットのZOCと敵軍ユニットのEZOCが両方重なることもありえるが、占領に関してはどのヘクスも必ずいずれかひとつの陣営に占領されている扱いになる。

戦闘での退却では基本的に、敵軍ユニットがいなくてEZOCでもないヘクスであれば、敵軍の占領マーカーが置かれているヘクスであっても退却先として入れて、入った時点で自軍に占領されている扱いになることが多い。

その一方で、補給確認では基本的に、敵軍の占領マーカーが置かれているヘクスは、たとえ敵軍ユニットがいなくてEZOCでもないヘクスであっても、補給線を通すことはできないことが多い。

つまり、敵軍の占領マーカーしか置かれてなくEZOCでもないヘクスは、移動だけでなく退却でも入れるけれども補給線を通すことはできない、と、ルールで定められていることが多い。

 

部隊の集中

移動と戦闘の両方に深く関係する3つの概念、最後の1つは「スタック」。

「スタック(stack)」という英単語の基本的な意味は「積み重ね(られたもの)」で、例えば積ん読状態の本を英語では「a stack of books」と表現する。古くからのMacユーザーであればハイパーカードの書類が「スタック」と呼ばれていたことを思い出す人もいるかもしれないが、あれも複数のカードが積み重なったもの、という書類のイメージで、アイコンもそういうデザインだった。

そして、厚紙の平べったい駒を使うボードウォーゲームにおいては、複数のユニットを積み重ねたものを「スタック」と呼ぶ。特にヘクスマップの場合は1ヶ所に部隊が集中している状態を表す。

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木やプラスチックで作られた立体的な駒を使うことが多いユーロゲーマーの間では、ボードウォーゲームは駒が厚紙ばっかりでしょぼいとみなされているが、厚紙を使うのは一点物が多いということに加えて、ユニット同士を積み重ねたり、更にその上にマーカーを載せたりすることが多いということが理由として挙げられる。

しかし、このような1ヶ所に部隊を集中させるという行為は、移動手段や通信手段が未発達だった前近代の戦いにおいては、部隊の混乱を引き起こすものだった。そのため、前近代の戦いをテーマとしたゲームでは、移動や退却の途中も含めて常時スタック禁止になっていることが少なくない。

そのような常時スタック禁止のゲームでは、移動フェイズで自軍ユニットを移動させる順番にも気を付けなければならず、移動力が大きい騎兵よりも先に移動力が小さい砲兵を移動させてしまったりすると、前がつかえてしまうことがあったりする。

しかし、移動手段や通信手段が発達した近現代戦を扱ったゲームでは、基本的にスタック制限はそこまで厳しくはない。1ヘクスにつきユニットは最大いくつまで、という上限が設けられていることは多いものの、移動や退却の途中ではそうした上限は適用されず、あくまでも移動フェイズや個々の退却の終了時にだけ上限違反が無いかをチェックすることが多い。

ただし、スタック可能なゲームでは、上限とは別の制限が設けられていることもある。軍隊というものは典型的なピラミッド型組織なので、それを反映して同じ陣営でも国籍の異なるユニット同士のスタックが禁止されていることは少なくないし、国籍が同じでも所属する上級司令部が異なる部隊同士はスタックできないこともあったりする。

それに加えて、都市のヘクスでは(インフラが整備されているので)スタック上限が緩和されているゲームがあったりする。また、部隊の規模が大きく異なるユニット同士が混在しているゲームでは、スタック上限がユニットの数ではなく何個連隊分、と定められていることもある(そうしたゲームでは個々のユニットに「連隊換算値」が印刷されている)。

「ドイツ戦車軍団」シリーズではスタックに関するルールはゆるめで、制限は1ヘクス毎のユニット数の上限しかなく、しかも移動フェイズや個々の退却の終了時にだけ上限違反が無いかをチェックする。加えて、シナリオや陣営による上限の違いはあるものの、地形による上限の違いは無い。

 

援軍

さて、ようやくセットアップ後の各ターンで実際に行うことを手順通りに説明することになるのだが、援軍フェイズはシナリオや陣営によっては実施しないこともある。

ターン記録表の現在のターンの欄で自軍の援軍の登場が指定されている場合、自軍の援軍フェイズ中に、指定されている援軍ユニットを指定されているヘクスに、スタック上限の範囲内で置く。

「ドイツ戦車軍団」シリーズの場合、援軍は原則としてマップの端に位置する特定のヘクスから登場するが、マップの端か否かを問わずに敵軍ユニットも敵軍の占領マーカーも無くてEZOCでもない陸地のヘクスに空挺ユニットが降下することもある。「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外の場合、マップの端ではない港や海岸のヘクスに援軍が上陸したり、敵軍ユニットのいない都市のヘクスから非正規のゲリラ・義勇軍・パルチザンが湧いて出てくることもある。

指定されているヘクスであっても、敵軍ユニットがいるヘクスには援軍ユニットを置けない。加えて、マップの端から援軍が登場する場合、敵軍ユニットに「挟まれている」ヘクスにも援軍ユニットは置けない(マップ外のEZOCからマップ内のEZOCへ移動することに相当するので)。そして、敵軍ユニットに挟まれてはいないものの、EZOCになっているヘクスの場合、援軍ユニットは置けるものの、その援軍ユニットは直後の移動フェイズには移動できない。

PC_Kharkov_reinforcement_hexes.jpg

例えば、「ハリコフ攻防戦」でドイツ軍の援軍ユニットを「B」のヘクス(2511〜2517)に置こうとしても、ソ連軍ユニットが2510・2512・2515にいる場合、2510・2512・2515に置けないだけでなく、ソ連軍ユニットに挟まれている2511にも置けない。2513・2514・2516には置けるものの、直後の移動フェイズには移動できない。2517に置かれた援軍ユニットのみ、直後の移動フェイズに移動できる。

指定されているヘクスに敵軍ユニットがいたりすることによって、スタック上限の範囲内では援軍ユニットを全て登場させきれない場合、そのターンに登場させない援軍ユニットを選んで、ターン記録表の次のターンの欄に置き直して登場を繰り越しさせる。また、援軍ユニットが全て登場できる場合であっても、意図的に一部あるいは全部の援軍ユニットの登場を次のターン以降に遅らせることもできる(ほとんどメリットは無いけれど)。もちろん、援軍は繰り越しできるが前倒しはできない。

 

移動

援軍は各ターン必ず登場するわけではないし、特に「ドイツ戦車軍団」の最初のシナリオである「エル・アラメイン」では援軍が全く登場しない。しかし、移動フェイズにユニットが全く移動しないということは基本的にありえないので、今度こそ全てのシナリオの全てのターンで共通して実施する行動の解説になる。

自軍の移動フェイズの開始時に、混乱状態ではない自軍ユニットはそれぞれ、移動力と同額の「移動ポイント」が与えられて、この移動ポイントを消費することによって移動を実施する。

この説明に対して、ん?と思う人もいるかもしれない。というのも、エポック版のルールブックでは「移動力」という言葉だけが使われていて「移動ポイント」という言葉は出てこないから。

しかし、アメリカのボードウォーゲームの英文ルールでは、ユニットは「移動力(Movement Allowance、略してMA)」に基づいて移動フェイズ毎に「移動ポイント(Movement Point、略してMP)」が与えられる、という説明になっていて、両者が明確に使い分けられている。

日本のボードウォーゲームのルールブックは「移動力」という言葉だけを使ってMAとMPを一緒くたしてしまっていることが少なくないのだが、これは「control」を「支配」と訳しているのと同様、悪癖だと言える。

「ドイツ戦車軍団」シリーズは弱ZOCなので、自軍の移動フェイズ開始時点でEZOC内にいる自軍ユニットはEZOCからEZOCへの移動はできないものの、EZOCからの離脱はできる。

そして、EZOCではないヘクスから移動を開始したり、一旦EZOCから離脱したりするのであれば、移動ポイントを使い切るかEZOCに(再び)入るまでの間、地形毎に定められた移動ポイントを消費することによって、今いるヘクスから隣接するヘクスへ、更にまた隣接するヘクスへ……と、移動を続けることができる。

移動を行うユニットは基本的に、隣接するヘクスに入る度に、そのヘクスの地形に応じた移動ポイントを消費するが、河川などのヘクスサイド地形を越える場合、追加で移動ポイントを消費する。また、道路や鉄道に沿って移動する場合は、移動先のヘクスの地形や通過するヘクスサイドの地形に関係無く、一律一定の移動ポイントを消費する。

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例えば、「ハリコフ攻防戦」でヘクス0634(ポルタワ)にいるユニットが隣接するヘクスに移動する場合、平地の0533や0534に移動すると1MPを消費して、森林の0734に移動すると2MPを消費する。小河川を越えて森林の0733に移動すると3MPを消費するが、鉄道に沿って小河川を越えて森林の0633に移動すると1MPしか消費しない。

余談だが、「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外のゲームの場合、EZOCから離脱する時に移動ポイントを追加で消費しなければならないものもある(敵の追求をかわして離脱するために時間をそれなりに費やすので、その分だけ移動に充てられる時間が減って移動できる範囲が狭まってしまうことを表している)。

移動ポイントがまだ残っていても、隣接するヘクスに入るために消費しなければならない移動ポイントよりも残額が少ないのであれば、それ以上移動できない。また、各移動フェイズにおける各ユニットの移動は一筆書きの要領で、同じヘクスに再度入ってはならない。

移動はユニット毎に行い、一旦移動を終えたユニットは移動ポイントがまだ残っていても、その移動フェイズには再度移動できない。そして、移動力(と移動ポイント)というものは、そのユニットの移動フェイズ1回分における移動能力の最大値を抽象化したものなので、使われなかった移動ポイントは他のユニットに譲渡することも次の移動フェイズに繰り越すこともできない。

同じ移動力(と移動ポイント)のユニット同士によるスタックを最初から最後まで一緒に移動させる場合、スタック単位でまとめて移動させた方が効率いいんじゃないの?と思う人は少なくないだろうし、実際そうしている古参ウォーゲーマーもいるけれど、スタックをまとめて移動させることはあまり推奨できない。

なぜならば、徒歩と車輪と無限軌道の走破性の違いを表現するために、同じ地形であっても兵種によって消費する移動ポイントが異なっているゲームがあったりするし、特定の兵種のユニットしか入れない・越えられない地形が設定されているゲームもあったりする。本来できない筈の移動をしてしまうミスを防ぐには、多少手間であってもユニット毎に移動するのが望ましい。

移動に関する説明はこれで終わりだが、自分の手番で自分の駒を複数まとめて移動できる、というゲームに慣れていない人は決して少なくはないので、もう少し補足的な説明を続ける。

自分の手番で自分の駒を複数まとめて移動できる、というゲームに慣れていない人が、自軍の移動フェイズに自軍ユニットを複数まとめて移動できるゲームをプレイすると、どの自軍ユニットを既に移動させたのか、途中でわからなくなってしまう、という事がしばしば起きてしまう。

そういうミスを防ぐ基本的なテクニックとして、移動済みのユニットを少し回転させて、移動フェイズの終了時に元の向きに戻す、という方法が広く使われている。

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ただし、個々のユニットが1輌/1隻/1機を表す、戦術レベルのミクロな戦いを扱ったゲームの場合、ユニットの向きがそのまま車体/船体/機体の向きを表していたりするので、そうしたゲームではこの方法は使えない。

そこで、ユニットが移動済みか否かを示すリマインダーとして、おはじきがしばしば使われている。イエサブの店舗ではバラ売りされているし、あみあみのオンラインショップでは50個入りが500円くらいで売られている。

また、おはじきはリマインダーとして使うだけでなく、同色のおはじきを2つ一組にして、移動させたいユニットと移動先の候補地のヘクスに1つずつ置くことによって、複数のユニットそれぞれの移動先を検討するのにも使える。こうすれば、移動させたいユニットを全てひととおり移動させたら戦線に大穴が開いていた、というミスを防げる。

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更に、おはじきよりももっと安い用具として「十字クロス目地スペーサー」を使う人もいる。本来はタイルを床や壁に一定間隔で貼り付ける時に使うもので、ホームセンターだと1000個入りが1000円くらいで売られているので、1個あたりの価格はおはじきよりも圧倒的に安い。ただし、一律白一色でカラーバリエーションは無く、ユニットに印刷されている情報が部分的に隠れてしまう。

 

戦闘

さて、ようやくボードウォーゲームの真骨頂にして醍醐味である、戦闘フェイズの説明に入る。

史実やゲーム全体における攻勢守勢に関係無く、自軍の戦闘フェイズでは自軍を「攻撃側」、敵軍を「防御側」として扱い、自軍の戦闘フェイズにおける戦闘とは、自軍ユニットによる敵軍ユニットに対する攻撃を意味する。

そして、自軍の戦闘フェイズで戦闘(自軍ユニットによる敵軍ユニットに対する攻撃)を実施する場合、まず、「戦闘の組み合わせ」を宣言する。

戦闘の組み合わせ、とは、攻撃対象である敵軍のユニットやスタックがいる任意の1ヘクスと、そのヘクスをZOCとしている任意の数の自軍ユニットで構成される。

1回の戦闘フェイズで戦闘の組み合わせを複数宣言しても構わないが、個々の組み合わせでは攻撃対象のヘクスは1つでなければならず、1つの組み合わせで同時に複数のヘクスを攻撃対象にすることはできない。

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個々の組み合わせで攻撃対象のヘクスが1つでなければならないのは、地形効果が関係している。個々の戦闘で攻撃側は防御側を今いる場所から追い払おうとして攻撃するのに対して、防御側は今いる場所に留まろうとして防御する。そのため、戦闘結果の判定では攻撃側と防御側それぞれの戦闘力に加えて、防御側が今いるヘクスの地形の「守りやすさ」が関係してくる。

陸戦では高低差や遮蔽物の有無などが守りやすさに関係してくる。そして、ほとんどの陸戦ゲームでは複数の地形が存在していて、それぞれ守りやすさが異なっている。1つの組み合わせで同時に複数のヘクスを攻撃対象にできると、地形効果(守りやすさ)がそれぞれ異なるヘクス同士が攻撃対象として混在してしまうことが起こり得る。

そうした事態を避けて、地形効果(守りやすさ)が異なるヘクス毎に戦闘結果を個別に判定するために、個々の組み合わせでは攻撃対象のヘクスは1つに絞らなければならない。一方、攻撃側は(今いるヘクスから敵軍のいるヘクスに向けてジリジリ前進するように攻撃するがゆえに)地形効果の恩恵を得られないものの、攻撃対象のヘクスがZOCになっていれば複数のヘクスにいる複数のユニットから同時に同じヘクスに対する攻撃を行える。

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「ドイツ戦車軍団」シリーズはメイアタックなので、攻撃対象のヘクスがZOCになっている自軍ユニットの1つ1つをそれぞれ攻撃に参加させるか否かは、自由に選択できる。自軍スタックの一部のユニットだけを攻撃に参加させたり、自軍スタック内の各ユニットを別々のヘクスに対する攻撃に参加させても構わない。

ただし、攻撃対象のヘクスにいる敵軍がスタックになっている場合、その敵軍スタックを構成している敵軍ユニット全てを攻撃対象にしなければならず、敵軍スタックの一部のユニットだけを攻撃対象にすることはできない。

加えて、1回の戦闘フェイズで戦闘の組み合わせを複数宣言する場合、同じヘクスを複数の組み合わせで複数回攻撃対象にしてはならず、同じ自軍ユニットを複数の組み合わせで複数回参加させてはならない。

言い換えると、1回の戦闘フェイズで戦闘の組み合わせを複数宣言する場合、敵軍のユニットやスタックがいる個々のヘクスはいずれか1つの組み合わせでしか攻撃対象にならず、個々の自軍ユニットはいずれか1つの組み合わせでしか攻撃に参加できない。

戦闘の組み合わせを複数宣言した場合、いずれか1つの組み合わせの戦闘結果を判定して結果を適用して、然る後に別の組み合わせの戦闘結果を判定する。

「ドイツ戦車軍団」シリーズでは、組み合わせを宣言した戦闘は全て実施しなければならないが、複数宣言した場合に戦闘を解決する順番まであらかじめ宣言する必要は無い。

戦闘の組み合わせの宣言を終えたら、個々の組み合わせの戦闘を1つずつ実施する。

個々の戦闘ではまず、攻撃側の戦闘力と防御側の戦闘力をそれぞれ算出する。戦闘に参加する攻撃側・防御側のユニットが1つだけであれば、そのユニットの戦闘力がそのまま攻撃側・防御側の戦闘力になるが、戦闘に参加するユニットが複数であれば、それらの戦闘力を合計する。

次に、防御側の戦闘力に地形効果を適用する。「ドイツ戦車軍団」ではシナリオ毎に特定の地形のヘクスにいる防御側は戦闘力が2倍になる。例えば「ハリコフ攻防戦」シナリオでは都市や森林のヘクスにいる防御側は戦闘力が2倍になる。

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少し特殊なのが河川の扱いで、全ての攻撃側ユニットが河川のヘクスサイド越しに攻撃する場合に限って河川の地形効果が適用される。

また、「ドイツ戦車軍団」では戦闘時の地形効果は累積しない。例えば「ハリコフ攻防戦」のサポロジェ(ヘクス2333)は森林内の都市だが、戦闘時に防御側がサポロジェにいても、防御側の戦闘力は4倍にはならず、2倍にしかならない。

次に、攻撃側の戦闘力と防御側の(地形効果を適用した)戦闘力を元に、攻撃側が防御側に対して何倍の戦闘力で攻撃するのかを表す、「攻撃側の戦闘力:防御側の戦闘力」という単純な整数比(戦力比)を作る。この戦力比は戦闘力が少ない方を「1」にするが、それに対して戦闘力が多い方に小数点以下の端数が出る場合、防御側に有利になるように切り上げ・切り下げをする。

例えば、防御側の戦闘力が「3」の場合、攻撃側の戦闘力が丁度2倍の「6」であれば戦力比は「2:1」になり、丁度3倍の「9」であれば戦力比は「3:1」になるが、攻撃側の戦闘力が7や8であっても戦力比は「2:1」にしかならない。そして、攻撃側の戦闘力が「2」であれば戦力比は「1:2」になってしまう。

余談だが、この戦力比という考え方は「攻撃三倍の法則」に基づいていて、戦闘結果表の勝率分布もそれに基づいている。

更に余談だが、「ドイツ戦車軍団」のJWC版では戦力比を表すマーカーがオマケで付いているので、戦闘の組み合わせを複数宣言する場合、個々の組み合わせにおける戦力比の算出まで先に済ませてしまって、リマインダーとしてマーカーを置いておくこともできる。

さて、戦力比の算出を終えたら、六面体サイコロを1個振って戦闘結果表を参照する。戦闘結果表はタテの列が戦力比を表し、ヨコの行がサイコロの目を表すので、戦力比とサイコロの目が交差する所に書かれている戦闘結果が適用されることになる。

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「ドイツ戦車軍団」の戦闘結果は以下のものに大別される(一部のシナリオにのみ登場する戦闘結果もある)。

これらの戦闘結果(の略称)は「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外でも使われることが多い。ただし、個々の結果の詳細(退却で何ヘクス後退するのか、激戦で双方のユニットをそれぞれいくつ除去するのか、など)は個々のゲームでかなり異なる。

「ドイツ戦車軍団」の場合、AEでは戦闘に参加した攻撃側のユニットを全て除去、DEでは戦闘に参加した防御側のユニットを全て除去、Cでは何もせず、EXでは戦闘に参加した攻撃側のユニットから任意の1つを攻撃側プレイヤーが選んで除去して、戦闘に参加した防御側のユニットからも任意の1つを防御側プレイヤーが選んで除去する。

ここでちょっと、ウォーゲームにおける「部隊の壊滅(ユニットの除去)」について補足しておく。部隊の壊滅というと、その部隊を構成している武器・装備が全て破壊された上に人員も全て死傷するか捕虜になった状態、と思っている人が(特に非ウォーゲーマーでは)少なくないだろうが、そのような認識は間違っている。

軍事行動というものは基本的にチームワークで実施される。戦車であれば車長・砲手・操縦手の3人(車種によっては砲手とは別に砲弾の装填手もいて4人)が乗っていて、1人でも死傷すれば他の全員が無傷でもまともに戦えなくなる。歩兵であっても1個分隊(約10人)で1人が負傷すれば基本的に4〜5人がかりで安全な後方にまで退避させることになるので、それだけで戦闘に従事できる人員が半減する。

務め人であれば、職場で急な欠員が1人でも出れば業務が大幅に支障を来すことを経験済みだろう。軍隊とて変わらない。

かつての日本陸軍で少なからぬ部隊が負傷者をほったらかしにして全員が死傷するまで戦い続けたエピソードに加えて、「ファミコンウォーズ」や「大戦略」の戦闘アニメーションが日本人一般における「部隊の壊滅」のイメージにめちゃくちゃ悪影響を及ぼしてしまっていると断言できるが、普通の軍隊というものは人員が3分の1でも死傷すれば組織としてまともに戦えなくなる。

つまり、ウォーゲームにおける部隊の壊滅(ユニットの除去)とは、基本的にその部隊が(人員や武器・装備は相当数が残ってはいるものの)組織としてまともに戦えなくなって最終ターンまで回復できなくなった、ということを意味する。

そのため、「ドイツ戦車軍団」以外のゲームでは一旦除去されたユニットが人員・武器・装備の補充を得て復活することもある。

閑話休題。退却に関する説明がまるまる残っているので話を戻す。

ARでは戦闘に参加した攻撃側のユニットを全て、攻撃側プレイヤーが1ヘクス退却させる(今いるヘクスから隣接するヘクスに動かす)。移動時に入れないヘクスや越えられないヘクスサイドは退却でも進入・通過はできないし、敵軍ユニットのいるヘクスやEZOCにも退却できない。他に退却できるヘクスが無い場合に限り、自軍ユニットのいるヘクスに退却できるが、それによってスタック上限を超過してしまう場合、更にそこから1ヘクス退却しなければならず、その場合も追加の退却先に関しては上記の制限が課される。退却できるヘクスが全く無いユニットは壊滅した扱いになり、除去される。退却できたユニットは裏返して混乱状態になる。

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そして、DRでは戦闘に参加した防御側のユニットを全て、「攻撃側プレイヤー」(←ここ重要)が退却させる。

ARの場合は攻撃側プレイヤーが攻撃側ユニットを退却させるし、EXの場合は攻撃側・防御側の各プレイヤーが自軍ユニットを1個選んで除去するのだから、DRでも防御側プレイヤーが防御側ユニットを退却させるのが道理だと思うのが当然だろう。実際、「ドイツ戦車軍団」シリーズ以外のゲームでは基本的にそうなっている。

では、なぜ「ドイツ戦車軍団」シリーズでは防御側ユニットの退却も攻撃側プレイヤーが行うのかというと、プレイヤーに予備のユニットの必要性を意識させるために、そうなっている。

強ZOCのゲームでは自軍ユニットが一旦EZOCに入ると離脱は容易ではないので、プレイヤーは自然と(EZOCに入ってなく、移動フェイズで即座に動ける)予備のユニットの必要性を意識するようになる。しかし、弱ZOCでなおかつ先攻後攻が固定のゲームでは予備の必要性を意識しにくい。

そこで、「ドイツ戦車軍団」シリーズでは防御側ユニットの退却も攻撃側プレイヤーが行うようになっている。この場合、防御側プレイヤーが防御側ユニットを退却させる場合と比べて、防御側ユニットが比較的不利な場所への退却を強制される可能性が高まることになる。

ゲーム的な処理と言えばその通りなのだが、「ドイツ戦車軍団」シリーズではこの方法によって、プレイヤーに予備のユニットの必要性を意識させるようになっている。

DRに関する説明をもう少し続ける。「ドイツ戦車軍団」ではARは一律1ヘクス退却だが、DRは厳密には「DR1」から「DR4」まで4種類あって、DRの後に続く数が退却させるヘクス数になっている。つまり、「DR1」であれば(ARと同様に)今いるヘクスから1ヘクスだけ退却させるが、「DR4」であれば4ヘクス退却させる。

DRの場合も退却先に関してはARの場合と全く同じ制限が課されるし、2ヘクス以上退却させる場合は退却を完了するまでに通過するヘクスにも全く同じ制限が課される。加えて、退却の過程で同じヘクスに再度入ってはならないし、退却を終えた時点では、DRの後に続く数の分だけ、退却を始める時点で元々いたヘクスから離れていなければならない。そうして退却できたユニットはARの場合と同様、裏返して混乱状態になる。

そして、戦闘の締め括りとして、DRやDEの戦闘結果によって防御側ユニットが戦闘の開始時に元々いたヘクスからいなくなった場合、攻撃側ユニットは防御側ユニットが元々いたヘクスに入る「追撃」を行える(英語では「advance after combat」と呼ぶので、日本語でもそれを直訳した「戦闘後前進」と呼ぶことの方が多い)。

追撃では、移動や退却とは異なって、EZOCを無視できる。つまり、攻撃側ユニットが今いるヘクスと防御側ユニットが元々いたヘクスの両方が(今回の戦闘には参加していない)別の敵軍ユニットのEZOCであっても、それを無視して防御側ユニットが元々いたヘクスへ追撃できる(敵を蹴散らかした勢いに乗って、そうしたことが可能になったという表現になっている)。

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追撃は任意選択なので、追撃すると逆に他の敵軍ユニットに包囲されたりして不利になるかもしれないと判断した場合は、追撃しなくても構わない。また、追撃ではEZOCを無視できるが、スタック上限は適用されるので、上限を超過した数のユニットを追撃させてはならない。

加えて、追撃はDRやDEの場合にのみ行える。ARやAEの場合、防御側ユニットは追撃できない(個々の戦闘で攻撃側は防御側を今いる場所から追い払おうとして攻撃するのに対して、防御側は今いる場所に留まろうとして防御する、という扱いなので)。また、EXでどちらか一方のユニットだけが残った場合も追撃はできない。

それから、「ハリコフ攻防戦」(と「コンパス作戦」)では兵種が戦車のユニットは追撃先の(防御側ユニットが元々いた)ヘクスが他の敵軍ユニットのEZOCでなければ、更にもう1ヘクスだけ追撃できる(縦深攻撃を表現している)。最初の追撃先が他の敵軍ユニットのEZOCの場合、追加の追撃はできない(縦深防御を表現している)。

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こうして、戦闘の組み合わせ1つ分における戦闘が終了する。戦闘の組み合わせを複数宣言していて、まだ戦闘を実施していない組み合わせが残っていれば、引き続き、同じ手順を繰り返す。

組み合わせを宣言した戦闘を全て終了するか、そもそも何も戦闘を宣言しなかったら、戦闘フェイズの終了ということで、攻撃側に属する混乱状態のユニットを全てオモテ面に戻して混乱状態から回復させる。この戦闘フェイズでARによって混乱状態になったユニットだけでなく、これより前の相手側の戦闘フェイズでDRによって混乱状態になったユニットも回復させる。

言い換えると、自軍の戦闘フェイズの終了時には自軍の混乱状態だったユニットが全て回復して、敵軍の混乱状態になっているユニットは全く回復しない。

 

補足あるいは蛇足

「ドイツ戦車軍団」シリーズに属する各ゲームでほぼほぼ共通して使うルールはこれが全てで、あとは個別のゲームやシナリオ毎に異なる勝利条件・地形効果・スタック上限そして追加ルールなどを把握すれば、どのゲームも即座にプレイできる。

加えて、これらのルールはいずれも、「ドイツ戦車軍団」シリーズに限らず、作戦(・戦略)レベルの陸戦を扱ったヘクスマップのボードウォーゲームで採用されていることが多い。強ZOCか弱ZOCか、マストアタックかメイアタックか、常時スタック禁止か否か、IGOUGOかチット引きかカードドリブンか、といった違いはあれど、同じようなルールを採用しているゲームは数多い。

戦術レベルの陸戦ゲームは射程や射界といった異なるルールが少なくないし、海戦ゲームや空戦ゲームも陸戦ゲームとはルールがかなり異なる。そして近年はエリアマップやポイントトゥポイントマップのゲームも増えていて、ヘクスマップのゲームとはルールがかなり異なる。

しかし、ボードウォーゲームは作戦(・戦略)レベルの陸戦を扱ったヘクスマップのゲームが依然として多数を占めているので、本稿で解説した一連のルールが依然としてボードウォーゲームにおける最大規模の共通言語であることは変わらない。

現実の軍事行動を、なるべくリアリティーを損なうことなく盤上に再現する、というのがボードウォーゲームの骨子なので、ルールの分量がユーロゲームにおける中量級〜重量級に相当するものになってしまいがちなことは否めない。それゆえ、最初のプレイのハードルが比較的高い。

本稿が、そのハードルを下げる一助になることを願う。




Last-modified: Fri 29-Dec-2023 03:00:30 PM +0900 JST