ミニチュアウォーゲームを拒む輩

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※警告:罵詈雑言あり

去年秋にウィキで公開した「日本卓上ウォーゲーム略史」でも少し触れた通り、日本の卓上ウォーゲームは元々、1972年に模型雑誌「月刊ホビージャパン」がミニチュアウォーゲームを誌面で紹介したことから普及が始まったものの、3年後の1975年にホビージャパンがミニチュアウォーゲーム推しからボードウォーゲーム推しへと方針転換したことでボードウォーゲーム偏重になってしまい、それが現在にまで影響してしまっている。

そのような、日本の卓上ウォーゲーム界におけるボードウォーゲーム偏重に気付いたきっかけは、2009年8月の香港取材だった。2009年から翌2010年にかけて、アジア各地の卓上ウォーゲーム事情を現地取材したレポートを「コマンドマガジン日本版」で連載することになり、その最初の取材先として訪問したのが、香港で1980年から活動している老舗サークル、The Hong Kong Society of Wargamersの定例会だった。

訪問時の様子を旅日記に記録しているが、ミニチュアウォーゲームがボードウォーゲームと同じ規模でプレイされている様子は壮観だった。サークルの公式掲示板のギャラリーを見てみれば、そうしたミニチュアウォーゲームもボードウォーゲームも別け隔て無くプレイされている様子が一層実感できる。

香港は日本と同様、1970年代から卓上ウォーゲームがプレイされていて、しかも日本より人口密度が高くて住宅事情が悪い。にも関わらず、ボードウォーゲームよりも場所を取りがちなミニチュアウォーゲームがボードウォーゲームと別け隔て無くプレイされているのは、ちょっとしたカルチャーショックだった。

翌2010年の4月には、香港と同じく1970年代から卓上ウォーゲームがプレイされていて人口密度が高くて住宅事情が悪いシンガポールを取材した。ミニチュアウォーゲームが実際にプレイされている様子は確認できなかったが、老舗のショップ「Paradigm Infinitum」の店内で販売されているウォーゲームがもっぱらミニチュアを使うものだったことは旅日記に記録している

そして2010年の秋には最後の取材として、北京で2005年から活動している北京戦棋党の定例会を取材した。やはり、ミニチュアウォーゲームがプレイされていた。公式サイトが2019年の末に閉鎖してしまっているが、2022年に代表者がビリビリ動画に定例会でのミニチュアウォーゲームのリプレイ動画を20件ほど上げている

こうした取材から、日本の卓上ウォーゲーム界のボードウォーゲーム偏重に気付き、並行して海外向けに日本の卓上ウォーゲームの略史をまとめる過程で、その原因がホビージャパンの方針転換に由来していることに気付いた。

日本の古参ウォーゲーマーの中には、いまだにホビージャパンのTRPGへの寝返りガー、などと言っている者がいたりするが、そういう奴に限っていまだにミニチュアウォーゲームを等閑視していたりする。その時点で所詮はホビージャパンの掌の上でしかないのに。

個人的には、ミニチュアウォーゲームは嵩張るから買うつもりは無い(東京23区内の借家住まいは居住スペースが限られるので、書籍も極力Kindle本で済ませるようにしていて、Fireタブレットには2000冊以上をブチ込んでいる)し、戦略級ゲームで駒にミニチュアを使うのはいかにも戦略と戦術の区別が付いていないシロート臭い見た目だから好きではないが、駒ひとつが実際の1輌/1隻/1機を表す戦術級ゲームではもっとミニチュアを使ったゲームがプレイされるべきだと思っている。いわゆるブンドド感マシマシだし、SNSでも映えて訴求力が高い。

加えて、ボードウォーゲームのヘクスマップでは60度単位でしか駒の方向転換ができないのに対して、マップに区切りを設けず定規(と分度器)で駒の移動と射撃を扱うミニチュアウォーゲームの方が、精密度は高い。

ヘクスマップというものは、リアリティーとプレイアビリティーのバランスが比較的良いというだけであって、リアリティーではマップに区切りを設けないミニチュアウォーゲームに劣るし、プレイアビリティーではエリアマップやポイント・トゥ・ポイントに劣る。ヘクスマップが常にベストなソリューションというわけではない。

加えて、マップの端から端までが実際の数千キロメートルに相当するようなゲームであれば、「地球の丸み」を考慮に入れざるを得なくなる。メルカトル図法だろうと正距方位図法だろうとモルワイデ図法だろうと、丸みを帯びた地球の表面を平面に落とし込む時点で必ずどこかに歪みが生じるのだから、そうした元々歪みのある平面を六角形で均等に分割する意義も薄れてくる。

また、ゲームで取り扱う時代が古くなるほど、移動手段は限られるようになり、高山・砂漠・密林といった行軍することが事実上不可能な地形が増えてゆき、平時に整備された道路や水路を使って行軍することが増えるのだから、わざわざヘクスマップを採用する意義も薄れてくる。

このように、ヘクスマップというものはあくまでも一手段であって、いつ何時であってもベストなソリューションというわけではない。にも関わらず、いまだにヘクスマップ至上主義を振りかざし、あまつさえミニチュアウォーゲームを積極的に排除する輩がいたりする。

え?今時そんな奴いるの?と思う人もいるかもしれないが、いるのだ。それも、1980年から40年以上活動している老舗サークルに。ここで、名指しで、槍玉に挙げておく。

國學院大學シミュレーションゲーム研究会だ。

國學院大學シミュレーションゲーム研究会では元々、ボードウォーゲームだけでなく「Axis & Allies Miniatures」とか「Duel in the Dark」といった、ミニチュアを使ったゲームもプレイしていた。加えて、毎年11月の学園祭「若木祭」ではビッグゲームの公開戦を実施しているのだが、2017年の若木祭では三日間に渡ってミニチュアウォーゲーム「Team Yankee」の公開戦を実施していた

ところが、これを快く思わないOBがいた。翌2018年4月の新歓活動最終日の打ち上げの席でヘクスマップ至上主義のOBが現役生と揉めて、その結果、現役生が大量離脱して新たにミリタリーゲーム研究会を設立するという分裂騒動が起きた。以来、國學院大學シミュレーションゲーム研究会ではミニチュアウォーゲームはプレイされなくなった。

現在、國學院大學シミュレーションゲーム研究会では「ウォーゲーム」でも「シミュレーションゲーム」でもない「ウォーヘクスゲーム」という、余所では使わない用語を公式ブログでも公式Twitterでも使っているが、これも件のOBに配慮した表現だと断言できる。

端的に言って、とっとと死ねクソ老害、という感想しか無いし、そんなクソ老害を排除できない現役生も現役生だ。腐りきっている。

全国各地の大学にある「シミュレーションゲーム研究会」のほとんどが、実際にはとっくの昔にTRPGやTCGやユーロゲームのサークルに鞍替えしていて、ただ単に名称変更の手続きが面倒くさいから「シミュレーションゲーム研究会」と名乗り続けているだけでしかない中で、ウォーゲームのプレイを続けている数少ない(恐らく唯一の)生き残りが國學院大學シミュレーションゲーム研究会で、だからこそ、その活動を紹介するべく、2014年の若木祭で「Fire in the East」の公開戦を見物して写真をFacebookに投稿した。

その写真は「Fire in the East」の日本語版のボックスアートを担当した(現在もアメリカのウォーゲーム界における大御所で、専門誌「C3i」の編集を手掛けている)ロジャー・マクゴワンの目に留まり、英語圏でも広く紹介された。
c3iopscenter_20141102.jpg

だが、そんな数少ない生き残りであっても、ヘクスマップ至上主義を振りかざしてミニチュアウォーゲームを積極的に排除するという、自ら間口を狭めるようなことをしているのであれば、潰れても一向構わない。つい先月、1980年代からプレイされ続けている現代海戦ミニチュアウォーゲーム「Harpoon」の最新第5版のルールの日本語版がリリースされたが、これもプレイされることは無いだろう(ちなみに、日本語版より2年も早く支那語版がリリースされている)。

追記
2018年4月の新歓活動最終日の打ち上げが揉めた直後、Twitterでそれを察知したので関係者のタイムラインを(週末だったこともあって)夜中過ぎまで片っ端から追っかけていたのだが、明らかに「建設的分派」などとは程遠い喧嘩別れだったし、ミリタリーゲーム研究会はコロナ禍以降、活動が確認できない。

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