癖の強いサブジャンル

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立命館大学に在学していた四半世紀前、天下一品の京都市内にある店舗を全て回っていた。元々、豚骨白湯系スープのラーメンが好きで、家で「うまかっちゃん」を作る時にはスープを濃くするため、お湯をわざと少な目にしていたくらいだったので、京都へ通学するようになった後、豚骨白湯よりも更に濃厚なスープの天一の存在を知ってからは、週に最低一度は店へ行くようになった。

その一方で、油そばの存在を知ると、そちらにも惹かれていった。当時、関西には油そばの店がほとんど無かったので、大学の長期休暇で東京へ行く度に、高田馬場の「ぶぶか」(芳林堂書店の入っているFIビルの地下にあった)や早稲田鶴巻町の「東京麺珍亭本舗」(すぐ隣が現代マンガ図書館だった)に入ってみた。油そば発祥の店とされる、武蔵境の珍珍亭も訪れてみた。

片や極端に濃厚なスープの天一、片やスープ無しの油そば、どちらも「普通のラーメン」というカテゴリーからは大きく逸脱している。振り返ってみれば、物心ついた頃からずっと、そうしたフツーのカテゴリーから大きく逸脱したものに強く惹かれてきた。卓上ウォーゲームも、そうだった。

ウォーゲームは、明らかに「普通のゲーム」というカテゴリーからは大きく逸脱している。非対称で、ゲームの外側にあるコンテクストとの結び付きが強く、ナラティブの度合いが高く、抽象度が低い。「普通のゲーム」が、ルールに基づいて勝った負けたを楽しむことに主眼を置いているのに対し、ウォーゲームは勝ち負けという結果よりはむしろ、勝ち負けに至るまでのプロセスやゲーム体験に重きを置いている、と言えるだろう。

そのように、「普通のゲーム」というカテゴリーからは大きく逸脱しているがゆえに、ウォーゲームはラーメンにおける天一や油そばや二郎系などと同様、癖の強いサブジャンルと言えるだろう。

あらゆるジャンルにおいて、「広く一般ウケするもの」と「好き嫌いがハッキリ分れるもの」が存在する。癖の強いサブジャンルは、後者に属する。そして、「広く一般ウケするもの」と「好き嫌いがハッキリ分れるもの」は、売り込み方も全く異なってくる。「広く一般ウケするもの」は癖の無さが売りになるのに対し、「好き嫌いがハッキリ分れるもの」は癖の強さこそが売りになる。

癖の強いサブジャンルは、いくら癖の強さを弱めたところで、広く一般ウケはしない。それどころか、下手に癖の強さを弱めると、癖の強さを求める受け手にそっぽを向かれてしまうこともある。1980年代後半から現在に至るまで、「初心者向け」と銘打った卓上ウォーゲームの多くが、下手に癖の強さを弱めようとした結果、大して新規のウォーゲーマー獲得には繋がらず、既存のウォーゲーマーからも支持されない、といった失敗を重ねてきた。

インターネットが普及するまでは、情報の発信コストは範囲に比例していた。情報を発信する範囲が広がればコストも上昇した。それゆえ、「広く一般ウケするもの」に比べて、「好き嫌いがハッキリ分れるもの」は情報発信の範囲が大都市以外に広がるほど費用対効果が低くなり、不利だった。しかし、インターネットの普及によって、「好き嫌いがハッキリ分れるもの」であっても広い範囲に点在する受け手にピンポイントかつ低コストで情報を発信できるようになった。ならば、癖の強さを弱める必要なんて無い。

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