人とゲームは見た目が9割

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エポッククラシックス小論」の続きみたいになってしまうが、エポッククラシックスの功罪の罪として、アートワークの問題についても触れておきたい。

エポッククラシックスは、同時期に販売されていたバンダイifシリーズツクダホビーのゲーム(ウォーゲームだけでなくRPGも含む)と比べて、明らかにボックスアートやコンポーネントのアートワークに金をかけてなく、見劣りしていた。そのような「見た目を軽視する姿勢」は、広告にも表れていた。最初期の雑誌広告で、バンダイが見開き2ページフルカラー、ツクダホビーが1ページフルカラーの広告を展開していたのに対し、エポッククラシックスは1ページモノクロだった。
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ゲームそのものの品質は、エポッククラシックスが最も高かった(だからこそ、現在に至るまで何度も再版されている)。しかし、ゲームの見た目に関しては、中身ほどにはリソースが投入されていなかった、と言えるだろう。そしてそのような見た目軽視の姿勢は、少なくとも5年間は続いていた。

エポッククラシックスは1981年から出版が始ったが、1986年に出版された「失われた勝利」は、ユニット下部に印刷されている3つのパラメーター、すなわち攻撃力・防御力・移動力が、何故か間をギチギチに詰めて中央寄せになって印刷されていて、読み取りにくくなっていた。実はこれ、版下ではちゃんと間隔が開けられていたのだが、印刷屋がこれら3つの数値を別々のものと認識せず、「3桁の数字が変に間延びしている」と勘違いして勝手に間を詰めて印刷してしまって、それを刷り直しさせずそのまま出荷してしまっていた。そもそも、版下の段階で3つの数値の間にハイフンかドットかスラッシュでも挟んでおけば、こうした勘違いは回避できたし、実際、SPIではそうしていた。サンセットゲームズが2000年に再版した時も、間にドットを挟んでいる。

このような、見た目(の格好良さや機能性)の軽視というのは、決して昔話ではない。1980年代に出版された国産ウォーゲームの内、エポッククラシックスが特に何度も再版されたことによって、いまだに尾を引いていると言える。

2004年に「コマンドマガジン」第57号の付録として「独ソ電撃戦」が再版された時、マップにヘクス番号が振られていなかった。元々エポッククラシックスではほとんどのゲームでマップにヘクス番号が入っていなかったが、同じ「コマンドマガジン」第23号で「バルジ大作戦」を、第40号で「日露戦争」を、第47号で「ドイツ戦車軍団」を再版した際には改めてヘクス番号を入れていたし、サンセットゲームズも「史上最大の作戦」や「関ヶ原」や「朝鮮戦争」や「失われた勝利」を再版する際には改めてヘクス番号を入れていた。にも関わらず、わざわざエポック版のヘクス番号なしのマップデザインを踏襲したことにあきれ返った。まぁ、この時期の「コマンドマガジン」は本誌の方でも画像のキャプションで戦艦アイオワを「アオイワ」とでっかく誤記するなど、明らかに品質が落ちていたし、2019年にジャパン・ウォーゲーム・クラシックスの第6弾として改めて「独ソ電撃戦」を再版した際にはちゃんとヘクス番号を入れていたけど。

現在、商業レベルやセミプロレベルでは、そこまで見た目の悪いウォーゲームは無いとは言えるが、インディーズではそうとも言えない。ゲームマーケットが回を重ねる毎に、インディーズのユーロゲームやTRPGの見た目が飛躍的に向上しているのに対し、インディーズのウォーゲームの見た目は多くが旧態依然としている。そもそもカタログのサークルカットの段階で同じデザインのものを何年も使い回していたりして、出展前の段階で見た目の勝負に負けている。

色々言ってるお前の方はどうなんだ、という声がそろそろ聞えてきそうなので、10年以上前にSPIの「The East is Red」のマップをイラレ(Creative Suiteになる直前のバージョン10)でリメイクしてみたものを上げておく。ほらよ。
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元々のSPI版でのテイストは継承しつつも、シアンとブラックの二色刷りだったのを、荒地を茶色にして視認性を高め、赤色をアクセントに加えた。おまけに地名にはキリル文字や簡体字やハングルも追加した。BoardGameGeekにも同じものを上げているが、10年以上経っても時々、高精細版が欲しい、というメールが海外から来る。著作権的にアウトだから送らないけど。

グラフィックデザインを専業としていないシロートの見様見真似でも、この程度のものは作れる。キョービ、ベジェ曲線のアンカーポイントも自分でいじれない奴はウォーゲームのアートワークに関わるな、とだけは言っておく。

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